土地活用コラム
「負」動産の相続放棄をした事例
令和6年4月1日から相続登記が義務化されたことは、貝沼ニュース123号と127号と135号でもお伝えしたところで、特に山林などの「負」動産については、このまま静観し、次の相続開始時に相続放棄をするか、「過料」のリスクをどうしても避けたければ「申告」するのかの二択と説明いたしました。今回は、70年前に亡くなった父親名義のままの山林が残っていることを最近になって知らされた方が、相続放棄の申請(申述)をして裁判所に受理された例を紹介します。
1.事案の概要
会社経営者であった依頼者の父親は昭和30年に亡くなりました。相続人は子どもだけであるところ、依頼者は3人兄弟の二男で、長男と三男はすでに亡くなっています。父親が亡くなった当時依頼者は大学生であり、父親の会社は長男が承継しました。ただし、遺産分割協議をした覚えはなく、依頼者自身、父親の遺産からは何ももらっていないとのことでした。そうしたところ、長男の長男(依頼者の甥)から弁護士を介して、「父親名義の山林が2筆あり、相続登記が義務となったことから、今後のことを相談したい」と令和7年に連絡がありました。依頼者としては「寝耳に水」であり、「そもそも長男が跡を継いでいるのだから、長男の長男が山林を引き取るべきである」と弁護士に伝えたところ、長男側も山林を引き取る義務も意向もないということで行き詰ってしまいました。なお、山林には安いながらも固定資産税が課税されており、長男家族がずっと支払っていました。

2.未分割の遺産が判明した場合、どうするか?
本来ですと、相続人で未分割の遺産を誰が取得するのか協議をして、まとまらなければ家庭裁判所に調停の申立てすることになります。
しかし、遺産が「負」動産だけの場合、調停の申立てをする手間と費用の方がかかります。さらに、取得を望む相続人が誰もいないと、結局裁判所は法定相続人全員に対して、法定相続分に応じて取得するという「審査」をすることになり、何の解決にもなりません。そのため、登記内容を含めて山林の存在を知らせれたのが相談日の2か月前なので、まずは、「相続放棄」ができないか検討することにしました。
3.相続放棄は、いつまでにしなければならないのか?
相続放棄は、「相続の開始」を知ってから3ヶ月以内に、裁判所に申請書を提出して手続きをする必要があります。
「相続の開始」とは、一般的には被相続人が亡くなったことであり、本件で依頼者は実子であり、葬儀にも参列していることから、父親が亡くなった昭和30年ということになります。なので、死後70年も経過していることから、通常ですと到底認められる余地はなさそうです。

4.3か月の例外は?
この点、最高裁判所は、「3か月以内に限定承認又は相続放棄をしなかったのが、被相続人に相続財産が全く存在しないと信じたためであり、かつ、被相続人の生活歴、被相続人と相続人との間の交際状態その他諸般の状況からみて、当該相続人に対し相続財産の有無の調査を期待することが著しく困難な事情があって、相続人において右のように信ずるについて相当な理由があると認められるときは、相続人が前記の各事実を知った時から熟慮期間を起算すべきである」としています。実際にも、被相続人が実は他人の連帯保証人になっていて、死後数年してから債権者から法定相続人に対して連帯保証の請求をしたことで判明したような場合には、この裁判所を引き合いにして、相続放棄が認められることが多いです。
5.山林の存在をいつ知ったのか?
相談日が令和7年2月1日で相手弁護士から依頼者にし、山林の登記の写しを送られてきたのは令和6年12月1日でした。なので、山林の存在を知って、依頼者が山林の相続人であることを知ったのは12月1日ということになります。よって令和7年2月末には裁判所に相続放棄の申請手続きをとる必要があります。
6.とにかくダメ元で申請しよう!
死後70年も経過して、「負」動産の存在の発覚をきっかけとして相続放棄の申請をするということは私自身例がなく、そもそも裁判所が受理してくれるのか疑問もありました。しかしながら、とにかくダメ元で、登記に記載されている住所地を管轄する家庭裁判所に申請することにしました。
7.申請してみたら、裁判所から特に細かく事情を聴かれたり、書類の追加を求められることもなく、あっさりと受理されました。私の推測となりますが、父親が亡くなった当時、依頼者は大学生で二男であったことから父親から相続した財産もなかったという主張に信用性があること、山林は他県であり、長男や長男家族とも疎遠であったことから、山林の存在を気づかないことにも相応の理由があったことを考慮した上で受理されたと思います。
8.もし申請が却下されたら?
相続放棄が認められなければ、依頼者も90代と高齢なので、依頼者が亡くなった段階で依頼者のお子さんが相続放棄の手続きをする方針でいました。なお、「祖父」の相続に対して、「孫」が放棄をすることは可能です。この場合は孫が「祖父の相続人であることを知ったとき」、すなわち「自分の親が亡くなった」ときが起算日となります。
9.相続放棄の受理証明書は、何が証明されているのか?
上の連帯保証人である例では、通常、債権者には家庭裁判所から発行される相続放棄受理証明書を提示すればその後は請求されなくなります。しかし債権者が、その相続放棄が無効だと主張して訴訟を提起してくるケースもまれにあります。例えば申請者が被相続人の財産である不動産を相続していることが、相続登記から明らかな場合です。これは、相続放棄受理証明書はあくまでも相続放棄を「申請(申述)したという行為がされたこと」が証明されるだけであり、相続放棄が法律上有効であることまでの証明はされていないからです。そのような場合は、裁判の中で相続放棄が有効かどうかを決着をつけることになります。
10.今回は、死後70年経って、実子による相続放棄が認められたという極めてレアなケースなので、参考にならないかもしれません。しかし、祖父母名義のままとなっている山林や野原などの「負」動産が残っている場合は、「自分の親」が亡くなったときに、「祖父母の相続」に対して「孫」が放棄することは可能です。なお、祖父母の相続に対して放棄する場合でも、自分の親に対する相続を放棄する必要はありません。なので祖父母の相続に対して放棄をしても、親の遺産を相続することは可能です。反面、相続の放棄をするということは、他の相続人に対して「負」動産を押し付けることになってしまいますので、今後の親戚関係に影響を及ぼしかねません。そのため、今後の親戚関係を断ち切ってでも、相続放棄をしてもよいのかは申請前に考慮しておき必要があります。
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