土地活用コラム
困った遺言書
相談者(長男)の父親は「私の財産を妻(※相談者の母親のこと)に遺贈する」という自筆の遺言書を遺していました。なお、父親の遺言書には、遺言執行者の指定がされていませんでした。母親は、(私の財産のうち、預貯金(総額2000万)は二男と三男に2分の1ずつ相続させ、不動産(土地2筆)、固定資産税評価額3000万円)を含むその他一切は長男に相続させる。遺言執行者は三男を指定する。」という公正証書遺言を遺していました。なお、土地の1筆には、長男名義で自宅を建てて、母親と同居していました。
父親は平成28年に亡くなり、母親は令和7年に亡くなりました。母親が亡くなった時点で、父親名義の土地2筆は相続登記が未了のままでした。母親の預貯金は、二男と三男が公正証書によって相続手続は済ませていました。最初に相続されたときは、長男に相続登記をすれば相続手続は完了すると簡単に考えていました。しかし、実際には簡単どころか、父親の遺言書があっても、紛糾して泥沼化するところでした。

1.長男の不満
父親の遺言に対しては、すべて母親に相続させることは不満とのことでした。なぜなら、父親の単独名義となっているが、土地を購入するときに自分が500万ほどの資金を提供していたからということでした。そのため、すべてを母親に相続させるという内容で手続きを進めることは拒否し、相続手続きができないまま時間が過ぎました。そうしたところ、母親が入退院を繰り返すなど体調が悪くなったことから、三男が主導して母親の遺言書を作成し、父親の遺言については、令和3年になってから三男が検認の申立てをしたとのことでした。父親の預貯金は、検認が済んだ自筆遺言で母親への相続手続ができたのですが、不動産については、後で述べるとおり検認を済ませただけでは相続登記を進めることはできませんでした。母親の預貯金は、二男と三男が公正証書で先に相続手続を済ませた後に、二男と三男が長男宅を訪れて、母親が遺した公正証書遺言の原本と、かねてから長男が主張していた500万円を置いていきました。長男としては、自分の知らないところで勝手に手続きを進められたことに不満を爆発し、最後は大けんか別れをしたとのことでした。

2.検認済遺言書か、裁判所での検認期日調書の入手
まずは、父親名義となっている土地の相続登記を進めることになりました。私としては、検認済証明書が付いてくる自筆遺言書か、裁判所での検認期日調書があれば、長男への相続登記は簡単に(二男と三男の関与することなく)できるものと考えていました。しかし、自筆遺言書は三男が所持しており、さらに裁判所で検認手続きがされた日にちもよく分からないとの事でした。
三男が検認済遺言書を紛失しているか提供をしてくれない場合、裁判所での検認期日調書の謄本をもって代用できるのが登記実務です。しかし、裁判所の記録保存期間は検認期日から5年間なので、父親の死亡からすると記録が破棄されている可能性がありました。記録が破棄されていると、遺産分割協議が必要となってしまいます。そのため急ぎ三男に対して、検認済遺言書の提供を求めることにし、応じてくれないときは弁護士を介して裁判所に対して事件番号などを照会することにしました。幸いにも三男は現時点で検認済遺言書の提供は応じられないが、コピーを送ってくれました。検認手続きは令和3年に行われていることが判明し、安堵しました。そのため、裁判所から検認期日調書の謄本を入手することができました。
3.司法書士に依頼するも・・・
公正証書の原本と検認期日調書の謄本が揃ったところで、司法書士に必要書類の指示を求めたところ、全く想定外の返事が届きました。父親の遺言書が、(1)相続させるではなく「遺贈する」となっていることや(2)遺言執行者が指定されていないことから、①相続人全員による登記申請が必要で、なおかつ、②父親から母親への遺贈登記と、③母親から長男への相続登記という2つの登記をする必要がある(すなわち登録免許税が2倍必要となる)、さらには④遺贈の登記をするためには土地の権利書(今でいう登記認別情報のことです)が必要であるとのことでした。(ちなみに、相続登記をする場合は権利書の添付は不要です。)さらには、二男と三男が協力してくれない場合は、家庭裁判所に父親の遺言書に関する遺言執行者の選任の申立てをする必要があるとのことでした。その場合、さらに数カ月もの時間と予納金として30万円前後の費用がかかります。こうなると、もっともシンプルなのは、父親名義の不動産については長男が相続するという、父親の相続についての遺産分割協議書を作成することでした。そのためには二男と三男に協力(実印での押印と印鑑証明書の用意)してもらう必要があります。長男は二男と三男に協力を求めることには拒否的でしたが、時間的・費用的コストが格段に違うことから、まずは二男と三男に協力を依頼し、拒否されたら遺言執行者の選任手続きを執ることになりました。
4.三男に電話すると
これらの事情を書面化するのは難しいので、私から三男に電話してみることにしました。電話口で三男は、長男が父親の相続手続に全く協力しなかったことに対する不満(母親は500万を払うといっていたのに拒否したのは長男であるとか)やこうした経緯もあり母親には公正証書で遺言書を作成してもらい、長男には事後報告にせざるを得なかったとは述べるものの、長男が不動産を相続することについては異存はないので最終的に協力してくれることになりました。さらに二男に対しても、三男から協力依頼の話をしておくとまで言ってくれました。

5.遺産分割協議書の完成と相続登記の完了
こうしてめでたく遺産分割協議書が調い、父親から長男への相続登記1本で完了しました。それでも長男は三男に批判的な発言を続けることから、私から「父親の相続の時の対応に全く非がなかったといえるのか、意固地になっていたことはなかったのか」「逆の立場で三男から協力を求められたときに、今回の三男と同じような対応をすることはできたのか」「そもそも相続で一番取得しているのは長男である」ことなどを指摘すると、バツが悪くなったのか私の前では批判的な発言はしなくなりました。

6.父親の遺言書の拙かったところ
①「相続させる」ではなく「遺贈する」としたこと
相続人に対して「遺贈する」としている遺言書はレアなケースです。登記申請する場合「相続させる」となっていると、相続することになっている人が、他の相続人の関与なく単独で登記申請をすることができます。しかし、「遺贈する」となっていると売買と同じように共同申請する必要があり、この場合は他の相続人または遺言執行者と一緒に申請しないと法務局は受け付けてくれません。加えて、権利書の添付も必要となり、権利書がないと相続人全員に対して法務局から事前通知がなされ、全員が対応してくれないと登記申請は受け付けてもらえません。
②遺言執行者が選任されていないこと
遺言執行者が選任されていると、本来なら相続人全員の関与が必要な手続も、遺言執行者一人だけの関与でできることになります。遺言書に遺言執行者の指定がないと、結局相続人全員での手続きが必要となるか、それが煩わしければ家庭裁判所に遺言執行者選任の申立てをする必要があります。特に今回のように相続人間での関係が悪いときは士業専門家が遺言執行者に選任される可能性が高いです。そうなると、執行者への報酬相当額として30万円前後の予納金が必要になるなど費用面でのリスクもあります。
7.遺言書を作成の際には、相続人には「相続させると」記載し、くれぐれも「遺言執行者の指定」は落とさないようにしてください。書類上は軽微な違いですが、実際の相続手続きでは、今回の事例のように大きな影響を及ぼします。
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