土地活用コラム

相続税を現金納付できない場合の対処法「物納」とは?対象となる財産や不動産売却との比較

亡くなった方から遺産を相続した場合に発生する相続税は、現金で一括納付するのが基本です。しかし、遺産の額によっては相続税が多額になるため「現金一括納付は難しい」という方も少なくありません。そのようなときに活用を検討したいのが、現金の代わりに相続財産を納付する相続税の物納制度です。

本記事では、物納を検討している方向けに、物納の概要や適用の条件、対象となる財産、不動産売却との比較、物納劣後財産について分かりやすく解説します。

 

相続税における「物納」とは? 概要と利用の条件

相続税における物納とは、相続税を金銭で納付するのが困難な場合、金銭に代えて一定の相続財産で納付できる制度です。相続税は課税価格の合計額に対して10~55%の税が課せられ、土地の価値によっては多額の税金を負担しなければならない場合もあります(※)。

しかも、相続税は被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10カ月以内に現金で一括納付するのが原則とされているため、納税までにあまり猶予はありません(※)。期限までに税金を納めなかった場合、延滞税が加算されるため、さらに納税負担が大きくなってしまいます。

物納はこうした納税困難者に対する救済措置として設けられた制度で、上手に活用すれば、まとまった金銭がない方でも期限内に相続税を納めることが可能です。

※参考:国税庁.「No.4155 相続税の税率」,(参照2025-04-21).
※参考:国税庁.「No.4205 相続税の申告と納税」,(参照2025-04-21)

物納を利用できる条件

物納はあくまで金銭による納税が難しい場合に適用される特例であるため、金銭による納付と物納のいずれかを自由に選択できるというわけではありません。物納を行うには以下の要件を全て満たしている必要があるため、検討する際は注意が必要です。

  • 延納によっても金銭で納付するのが困難であること
  • 物納は、相続財産のうち日本国内に所在する指定の財産であること
  • 納付が困難な金額を限度とすること

相続税には金銭で納付するのが困難である場合、所定の申請を行うことで最長20年にわたって相続税を年賦払いできる延納制度があります。金銭での納税が難しい場合、すぐに物納を考えるのではなく、まずは延納での納付が可能かどうかを検討しなければなりません。

延納は以下全ての要件を満たす場合に申請できます(※)。

  • 相続税額が10万円を 超えていること
  • 金銭での納付が困難な事情があること
  • 金銭での納付が困難な額を上限とすること
  • 延納税額および利子税の額に相当する担保(国債や不動産、有価証券等)を提供すること(延納税額が100万円以下かつ延納期間が3年以下の 場合は不要)
  • 延納申請期限までに所定の書類を税務署長に提出すること

以上の要件を満たせない場合や、延納を利用しても納税が難しい場合のみ、物納を選択することが可能です。

※参考:国税庁.「No.4211 相続税の延納」,(参照2025-04-21).

 

物納できる財産、できない財産

物納の対象となるのは、相続財産のうち日本国内に所在する財産です。具体的には以下のようなものが対象で、第1順位から第3順位まで優先順位が設定されています(※)。順位の詳細については後述します。

  • 第1順位:不動産・船舶・国債証券・地方債証券・上場株式など
  • 第2順位:非上場株式など(第1順位財産がない場合)
  • 第3順位:動産(上位順位財産がない場合)

一方で、以下に該当する財産は物納の対象とはなりません。

  • 管理処分不適格財産
  • 相続時精算課税制度の適用を受けた財産
  • 非上場株式等についての贈与税の納税猶予の特例の適用を受けた非上場株式等
  • 個人の事業用資産についての贈与税の納税猶予の特例の適用を受けた事業用資産

以下では、物納できない財産についてそれぞれ詳しく解説します。

※参考:国税庁.「No.4214 相続税の物納」,(参照2025-04-21).

管理処分不適格財産

管理処分不適格財産とは、物納に不適格な財産です。物納に不適格か否かの基準は財産ごとに以下のように定められています(※)。

不動産

以下のような不動産は管理処分不適格財産として扱われる可能性が高いです。

  • 担保権の設定の登記がされている、あるいはそれに準ずる事情がある
  • 権利の帰属について争っている
  • 境界が明らかではない
  • 隣接する不動産の所有者との間で境界の合意が取れていない
  • 他の土地に囲まれて公道に通じておらず、かつ通行権の内容が明確ではない
  • 借地権の目的となっており、かつその借地権の持ち主が不明である
  • 他の不動産と社会通念上一体として利用されている、または二人以上の者が共有している
  • 耐用年数を経過している
  • 敷金の返還に係る債務などを国が負担することになる
  • 管理または処分に要する費用が収納価額を大幅に上回る
  • 公の秩序または善良の風俗を害する恐れのある目的に使われている
  • 引き渡しに必要な行為がされていない
  • 地上権や永小作権、貸借権の使用や収益を目的とする権利が設定されており、かつ暴力団員または暴力団員ではなくなった日から5年を経過しない者が権利を有している

株式

管理処分不適格財産と見なされ得る株式には、次のような条件があります。

  • 譲渡に関して一定の法的手続きが定められているにもかかわらず、その手続きが取られていない株式
  • 譲渡制限株式
  • 質権などの担保権の目的になっている株式
  • 権利の帰属について争っている株式
  • 共有に属する株式
  • 暴力団員によって事業活動が支配されている株式または暴力団員等を役員とする株式会社が発行した株式

なお、上記に挙げた不動産や株式に定める財産に準ずるとし、税務署長が認めるものについても管理処分不適格財産と見なされる場合があります。

※参考:国税庁.「No.4214 相続税の物納」,(参照2025-04-21).

相続時精算課税制度の適用を受けた財産

相続時精算課税制度は、一定の要件に該当する方が、暦年贈与(基礎控除額110万円)制度との選択により適用できる制度です。

贈与時には、贈与財産の贈与時の評価額の合計額が2,500万円に達するまでは、贈与税の申告のみで、贈与税の課税はされませんが、その後、贈与者の相続が発生したときには、当該制度選択後のその贈与者から贈与を受けた全ての財産の贈与時の評価額を相続財産に加算して相続税を計算し、相続税が課税されます。

相続時精算課税制度を選択し、複数年にわたり贈与することも可能です。この制度を利用すると、後の相続税の節税が可能となったり、贈与者の所得税・住民税等の負担が軽減されたりと、さまざまなメリットを期待できますが、相続税の物納には利用できなくなるため注意が必要です。

非上場株式等についての贈与税の納税猶予の特例の適用を受けた非上場株式等

非上場株式等についての贈与税の納税猶予の特例とは、後継者である受贈者が、認定を受けている非上場会社の株式等の贈与を受けた場合に、一定の要件の下、その贈与税の納税を猶予または免除してもらえる制度です(※)。

この特例を利用すると円滑な事業承継が可能になりますが、前述の通り、贈与した財産は物納の対象外となる点に注意が必要です。

※参考:国税庁.「No.4439 非上場株式等についての贈与税の納税猶予及び免除の特例等(法人版事業承継税制)」,(参照2025-04-21).

個人の事業用資産についての贈与税の納税猶予の特例の適用を受けた事業用資産

個人の事業用資産についての贈与税の納税猶予の特例とは、特例事業受贈者(認定を受けた事業後継者)が、青色申告に係る事業を行っていた贈与者から、その事業に係る特定事業用資産の全てについて贈与を受けた際、一定の要件の下、贈与税が猶予または免除される制度です。

後継者の税負担を大幅に軽減できるところが利点ですが、この制度を利用して贈与された財産は、前述の通り、物納の対象外となります。

※参考:国税庁.「No.4442 個人の事業用資産についての贈与税の納税猶予及び免除(個人版事業承継税制)」,(参照2025-04-21).

 

物納の優先順位も確認しよう!

ここまで物納の対象となる財産について説明してきましたが、物納できる財産は全て任意で選択できるわけではありません。物納の対象となる財産には優先順位が設けられており、原則として順位の高い方から物納する決まりになっています。

優先順位は以下の通りです(※)。

第1順位
  1. 不動産、船舶、国債証券、地方債証券、上場株式等(短期社債等は除く)
  2. 不動産および上場株式における物納劣後財産
第2順位
  1. 非上場株式等(短期社債等は除く)
  2. 非上場株式における物納劣後財産
第3順位
  • 動産

例えば、不動産と非上場株式の両方を保有している場合、第1順位に該当する不動産を優先的に物納しなければなりません。不動産を手元に残したまま、第2順位の非上場株式等を物納するという方法はできないため、あらかじめ注意が必要です。

なお、第1順位や第2順位に該当する財産がない場合は、第3順位の動産を物納できますが、税務署長が特別の事情があると認めることが条件となります。

※参考:国税庁.「No.4214 相続税の物納」,(参照2025-04-21).

物納劣後財産とは

物納劣後財産とは、物納の対象となる財産のうち、後順位として取り扱われるものです。具体的には、財産の使用収益に一定の制約が設けられているものや、他の財産に比べて売却しにくいと考えられるものなどがこれに該当します。

物納劣後財産は相続税法施行令第19条によって定められており、以下のようなものが挙げられます(※)。

  • 地上権、永小作権、耕作を目的とする貸借権、地役権または入会権が設定されている土地
  • 法令の規定に違反して建築された建物とその敷地
  • 土地区画整理法による土地区画整理事業や、新都市基盤整備法による土地整理などが施行され、仮換地または一時利用地の指定がされていない土地
  • 納税義務者の居住や事業に用いられている建物とその敷地(申請者が自ら物納申請する場合は除外)
  • 配偶者居住権の目的になっている建物とその敷地
  • 建築基準法に規定する道路に2m以上接していない土地

これらの財産は一般的な財産に比べて価値が劣ると見なされるため、他に物納に適した財産があると認められる場合は、原則として物納の申請は却下されます。

※参考:e-GOV法令検索.「相続税法施行令」.“第十九条”,(参照2025-04-21).

 

物納と不動産売却してからの納付ではどちらがいいの?

手持ちの資金では相続税を一括納付できない場合、相続した不動産を売却してお金を工面するという方法もあります。どちらの方法も相続した財産を処分して納税に充てるという点は共通していますが、メリットとデメリットはそれぞれ異なるため、どちらがより自分に合った方法か慎重に見極めることが大切です。

ここでは物納と不動産売却それぞれのメリット・デメリットをまとめました。

物納のメリット・デメリット

物納のメリットは、譲渡所得税が課税されないことです。

通常、不動産を譲渡すると、譲渡益から不動産の取得費や譲渡費、特別控除額などを差し引いて求めた課税譲渡所得額に、一定の税率(15%または30%)をかけた譲渡所得税を納付しなければなりません(※)。

一方、物納は不動産の譲渡には該当しないため、譲渡所得税を納める必要はなく、税負担を軽減できます。

ただし、物納に使用する土地はあらかじめ測量しなければならないため、別途測量費用が発生するのがデメリットです。測量費用は土地の面積や形状などによって異なりますが、境界線をはっきりさせる確定測量の場合、30万~80万円程度の費用がかかります。

また物納の場合、財産の価値は相続税の計算に用いる相続税評価額を基に計算されるため、一般的な不動産の売却相場よりも安くなりがちな点もネックです。

※参考:国税庁.「No.1440 譲渡所得(土地や建物を譲渡したとき)」,(参照2025-04-21).

不動産売却のメリット・デメリット

不動産売却のメリットは、任意で売却額を設定できることです。買い手との交渉次第ではより良い条件で譲渡できる可能性があり、特に相続税評価額より実勢価格が高い地域では節税効果以上に利益を上げられるケースもあります。

また不動産仲介業者を利用すれば、売却にまつわる手続きの多くを代行してもらえるため、全ての手続きを自分で行わなければならない物納に比べると、手間がかからないことも利点の一つです。

一方で、買い手がすぐに見つからない場合、相続税の納期限に間に合わず、利子や延滞税がかかる可能性があります。相続税の納期限は被相続人が亡くなったことを知った日の翌日から10カ月間と決まっているため、迅速かつ要望に適した譲渡を実現できるかどうかが重要なポイントになるでしょう(※)。

※参考:国税庁.「No.4205 相続税の申告と納税」,(参照2025-04-21).

 

物納の手続きや期限を確認しておこう

物納の申請手続きは、相続税の納付期限までに済ませておかなければなりません。申請の際は以下の書類をそろえ、被相続人の死亡時の住所地を所轄する税務署に提出します(※)。

  • 相続税物納申請書
  • 物納財産目録
  • 金銭納付を困難とする理由書
  • 物納劣後財産等を物納に充てる理由書(物納劣後財産を物納する場合)
  • 物納手続関係書類(登記事項証明書など)

物納手続関係書類は、物納する財産によって異なるため、国税庁のWebサイトを確認するか、税務署に問い合わせておきましょう。

※参考:国税庁.「相続税の物納の手引~手続編~」p11,(参照2025-04-21).

 

相続税を金銭で納付できない場合は物納や不動産売却を検討しよう

相続税を現金で一括払いできず、かつ延納でも対応しきれない場合は、物納か不動産売却で対処する必要があります。物納の場合、譲渡所得税を節税できるというメリットがありますが、対象となる財産に規定がある上、市場価値より低い評価を受ける可能性があります。

より手元に多くのお金を残したい場合や、手続きの手間をなるべく省きたい場合は、相続した不動産の売却を検討するのも方法の一つです。

貝沼建設では、税理士や弁護士、土地家屋調査士といった各種専門家と提携し、相続に関するさまざまなサポートを行っています。また土地や建物の売却についても親身になって相談に乗り、できるだけ要望やニーズに合った不動産売却を実現します。

相続税の支払いにお困りの方や、将来の納税に不安を感じている方は、ぜひ貝沼建設までお気軽にご相談ください。

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