土地活用コラム
「自力救済」はどこまで許されるのか?
「3か月分の賃料を滞納している賃借人がいるが、賃借人とは連絡がとれず、行方不明となっている。この場合、裁判をやらないで目的物(借地上の建物や自動車)や居室内の残置物をオーナーが処分して、次の賃借人を募集してよいか?」
1.大原則
貝沼ニュース121号で、家賃滞納者に対して、一定の要件を満たせば物件を明け渡したとみなして、滞納者の家財を処分できると定めた特約を有効とした大阪高等裁判所の判決を紹介しました。しかし、令和4年12月12日に最高裁判所はこの判決を破棄し、このような特約は「無効」であると判断しました。そうなりますと、これまでの原則である「自力救済の禁止」を踏まえ、明渡しを求めて裁判し、明渡しの判決が出ても退去しない場合は強制執行を踏まないと、合法的・強制的に退去させることはできないことになります。
2.例外はないのか?
①もともと、オーナーによる自力救済が後に問題となって、賃借人から訴えられるようなケースは、賃借人が滞納はしているものの居住しているなど「賃借人の所在は確認ができて、実際に賃借目的物を使用しているケース」が大半です。長期間行方不明だった賃借人が忘れた頃になって自力救済したことを理由に損害賠償を請求してくるというのは非現実的という感じです。とはいうものの、万が一に備えておく必要はあります。
②その場合、参考になるのは先ほどの大阪高等裁判証の判決となります。特に重要なのは、「Yは、賃借人が賃料等の支払を2か月以上怠り、Yが合理的な手段を尽くしても賃借人本人と連絡がとれない状況の下、電気・ガス・水道の利用状況や郵便物の状況等から本件建物を相当期間利用していないものと認められ、かつ本件建物を再び占有使用しない賃借人の意思が客観的に看取できる事情が存するときは、賃借人が明示的に異議を述べない限り、これをもって本件「建物」の明渡しがあったものとみなす」という部分です。
3.具体的検討
(1)滞納期間と行方不明期間
「2か月以上」となっていますが、「3か月以上」の滞納がないと裁判では契約解除が認められないのが通常です。ましてや賃借人の所有物を廃棄するとなると、3か月であっても早急という感じです。賃料滞納による建物明渡裁判では、提訴から強制執行完了まで「約6か月」を要求することから、「6か月」は様子をみるのが、無難と思われます。
(2)「合理的な手段」とは?
以下の事項について確認することとなります。
(3)「目的物」によるリスクの高低は?
①放置自転車→②賃貸居室→③借地上にある賃借人所有の建物、の順にリスクが高くなります。
特に建物については、それなりの評価や価値が認められるのが通常なので、借主からの損害賠償請求が認められてしまうと百万単位の高額になりかねない上、刑法でも建造物破壊に該当し、住居侵入や器物破壊よりも法定刑が重くなっているので注意を要します。
4.結論
設問の回答としては、現時点での自力救済は「時期尚早」であり、まずは賃借人の所在等について上記3(2)の調査を開始し、その結果を踏まえてリスクの程度について検討し、オーナーとしての最終決断をすることになります。
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