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相続と贈与の違いは?選ぶときのポイントや税の計算方法、併用のメリットを解説
自分の財産を誰かに譲る方法は、大きく分けて相続と贈与の2通りがあります。どちらも財産を誰かに受け継がせるという点は共通していますが、合意の必要性や、財産を受け継がせることができる相手、税金などに違いがあるため、両者の特徴や違いをよく理解してから、どちらを選ぶかを検討しましょう。
本記事では相続と贈与の違いと、それぞれの計算方法、選び方のポイント、併用した場合の節税効果について解説します。
相続と贈与はどこがどう違うの? 相続と贈与を比較してみよう
相続と贈与の違いを理解するには、それぞれの概要を知る必要があります。まずは相続と贈与それぞれの概要について説明します。
相続とは、亡くなった人の財産を引き継ぐこと
相続とは、亡くなった人(被相続人)の財産を、残された家族などが引き継ぐことです。
民法の規定にのっとって相続する法定相続と、亡くなった人が遺した遺言書に基づいて相続する遺言相続の2つがあります。原則として故人の遺志を尊重した遺言相続が優先され、遺言書がない、あるいは無効の場合は法定相続が採用される仕組みです(※)。
※参考:e-Gov法令検索.「民法」.“第九百二条”. ,(参照2025-04-23).
財産を引き継ぐ人
法定相続の場合、財産を引き継ぐ人は法定相続人に限られます。
法定相続人とは、相続が発生した時点で、被相続人の財産を相続する権利を有する人をいいます。被相続人の配偶者は常に法定相続人となり、それ以外の人(被相続人の直系卑属・直系尊属・兄弟姉妹)は以下のような優先順位が定められています(※)。
第一順位 | 被相続人となる人の直系卑属(子・孫) |
第二順位 | 被相続人となる人の直系尊属(父母・祖父母) |
第三順位 | 被相続人となる人の兄弟姉妹 |
被相続人となる人の配偶者は常に法定相続人となりますが、それ以外の人は上記の優先順位が定められています。例えば、被相続人となる人に直系卑属がいる場合には、直系尊属や兄弟姉妹は法定相続人にはなれません。被相続人となる人に直系卑属がいない場合には、直系尊属が法定相続人となり、被相続人となる人に直系卑属も、直系尊属もいない場合には、被相続人となる人の兄弟姉妹が法定相続人となります。
一方、法定相続人以外の人に財産を引き継がせる遺言相続の場合、相続ではなく遺贈といい、被相続人の財産を取得した人は受遺者と呼ばれます。
※参考:e-Gov法令検索.「民法」.“第八百八十七条~第八百九十条”. ,(参照2025-04-23).
合意の有無
相続の場合、被相続人と相続人の間で、財産を相続することの合意は必要ありません。相続人が合意したか否かにかかわらず、被相続人の財産を引き継ぐ権利は、その人が死亡すると同時に発生する仕組みになっています。もちろん、相続人が財産を引き継ぐか否かは自由です。
相続放棄し、被相続人の財産(権利)・債務(義務)を一切引き継がないことも可能です。相続放棄をする場合には、自己のための相続の開始があったことを知ったときから3カ月以内に家庭裁判所に相続の申述をする必要があります(※)。当該相続放棄の申述が受理された場合には、被相続人の相続に関して初めから相続人でなかったものと見なされます。従って、相続放棄をした人は、相続により財産を取得しないため、相続人には該当しません。
※参考:e-Gov法令検索.「民法」.“第九百十五条”. ,(参照2025-04-23).
税金
財産を相続した場合、相続人は財産の額に応じて計算した相続税を納める必要があります。相続税は被相続人が亡くなったことを知った日の翌日から10カ月以内に申告しなければなりません(※)。
なお、相続税の計算方法については後述します。
※参考:e-Gov法令検索.「相続税法」.“第二十七条”. ,(参照2025-04-23).
贈与とは、特定の相手に財産を与えること
贈与とは、当事者の一方が自分の財産を無償で相手に与えることです。相続は、被相続人が亡くなることによって権利が発生しますが、贈与は財産を与える人(贈与者)と、受け取る人(受贈者)の合意によって成立します。贈与であれば、生前に財産を譲り渡すことが可能です。
なお、贈与において受贈者は贈与者に対し、金銭その他のものを渡す必要はありません。贈与はあくまで無償で財産の受け渡しをする行為であり、贈る側と受ける側の間で金銭の授受があった場合は譲渡と見なされます。
ただし、個人から著しく低い価額で財産を譲り受けた場合は、その財産の時価と支払った対価との差額に相当する金額は贈与によって取得したものと見なされます(※)。
※参考:国税庁.「No.4423 個人から著しく低い価額で財産を譲り受けたとき」. ,(参照2025-04-23).
財産を引き継ぐ人
相続では、遺言書がない場合、財産を引き継げるのは法定相続人のみに限定されます。
一方、贈与の場合は財産を渡す相手について特に制限はありません。双方で合意さえ交わしていれば、全くの他人であっても財産を受け渡すことが可能です。
合意の有無
相続では相手の意志に関係なく、故人の財産を引き継ぐ権利が発生しますが、贈与は契約の一種であるため、双方の合意が必要です(※1)。いくら特定の人に自分の財産を贈与したいと考えても、受け取る側が拒否すれば、財産を贈与することはできません。
逆に、一度書面で贈与契約を締結してしまうと、原則として一方的な贈与の取り消しは認められないため、贈与契約を交わす際は贈与者、受贈者共に慎重に判断する必要があります。
なお、正式な書面を交わす前であれば、贈与は一方的に取り消すことが可能です(※2)。例えば贈与者が受贈者に口頭で「財産を渡す」といい、受贈者がこれを了承していたとしても、書面による贈与契約を締結する前であれば、どちらの立場からでも取り消し可能です。
※1参考:e-Gov法令検索.「民法」.“第五百四十九条”. ,(参照2025-04-23).
※2参考:e-Gov法令検索.「民法」.“第五百五十条”. ,(参照2025-04-23).
税金
贈与が行われた場合、受贈者は受け取った財産の価値に応じて贈与税を納める必要があります。贈与税は原則として、贈与を受けた年の翌年の2月1日~3月15日に申告・納税する決まりになっています(※)。なお、贈与税の計算方法は相続税とは異なるため注意が必要です。
具体的な計算方法は後述します。
※参考:国税庁.「No.4429 贈与税の申告と納税」. ,(参照2025-04-23).
相続と贈与での計算方法を確認してみよう
相続と贈与は、どちらも財産を受け取った側が財産の価値に応じた税金を納めますが、税の計算方法に大きな違いがあります。ここでは相続税と贈与税それぞれの計算方法について解説します。
相続税の計算方法
相続税は、課税遺産総額に相続税率を乗じて計算します。そのため、相続税を求めるには、まず課税遺産総額を計算しなければなりません。
課税遺産総額は、正味の遺産額から、3,000万円 + 法定相続人の数 × 600万円で求められる基礎控除額を差し引いて算出します(※1)。例えば正味の遺産額が3億円で、法定相続人が妻と子2人だった場合の課税遺産総額は以下の通りです。
3億円 - (3,000万円 + 600万円 × 3人) = 2億5,200万円
次に、課税遺産総額を法定相続分で按分します。法定相続分は法定相続人によって異なりますが、代表的な例は以下の通りです(※1)。
子がいる場合 | 配偶者1/2、子1/2(2人以上の場合は人数分で分ける) |
子がいない場合 | 配偶者2/3、父母1/3(2人の場合は等分する) |
子・父母がいない場合 | 配偶者3/4、兄弟姉妹1/4(2人以上の場合は人数分で分ける) |
妻と子2人が法定相続人の場合、妻は1/2に当たる1億2,600万円、子はそれぞれ1/4に当たる6,300万円を引き継ぐことになります。これに相続税率を乗じますが、税率は法定相続分に応ずる取得金額によって以下のように定められています(※1)。
法定相続分 | 税率 | 控除額 |
1,000万円以下 | 10% | – |
1,000万円超~3,000万円以下 | 15% | 50万円 |
3,000万円超~5,000万円以下 | 20% | 200万円 |
5,000万円超~1億円以下 | 30% | 700万円 |
1億円超~2億円以下 | 40% | 1,700万円 |
2億円超~3億円以下 | 45% | 2,700万円 |
3億円超~6億円以下 | 50% | 4,200万円 |
6億円超 | 55% | 7,200万円 |
上記の税率表を基に計算すると、妻の分の相続税は1億2,600万円 × 40% - 1,700万円 = 3,340万円、子1人当たりの相続税は6,300万円 × 30% - 700万円 = 1,190万円です。
なお、妻については配偶者の税額軽減が適用されます。配偶者の税額軽減は、実際に取得した遺産額について、1億6,000万円か配偶者の法定相続分相当額のうちいずれか多い金額まで相続税が課税されないという制度です。(※2)上記のケースの場合、妻が取得したのは1億2,600万円であるため、1億6,000万円までの分は相続税がかかりません。つまり、妻が実際に納める相続税は0円です。
一方、子は基本的に上記の計算通りの相続税を納めることになりますが、子が未成年の場合は未成年者の税額控除が適用されます(※3)。控除が適用されると、その未成年者が満18歳になるまでの年数1年につき10万円で計算した額を控除可能です。例えば未成年者の年齢が14歳10カ月の場合、端数の10カ月は切り捨てて14歳とし、18歳 - 14歳 = 4歳、つまり4年分 × 10万円 = 40万円が控除されます。
なお、相続した財産の中に居住用の宅地が含まれている場合は、小規模宅地等の特例が適用されます(※4)。減額割合は宅地の利用区分や要件によって異なりますが、最大で80%が減額されるため、相続税を大幅に軽減することが可能です。小規模宅地等の特例の要件や概要は国税庁のWebサイトに掲載されているため、宅地を相続する際は条件に該当するかどうかをチェックしてみましょう。
※1参考:国税庁.「財産を相続したとき」.,(参照2025-04-21).
※2参考:国税庁.「No.4158 配偶者の税額の軽減」. ,(参照2025-04-21).
※3参考:国税庁.「No.4164 未成年者の税額控除」. ,(参照2025-04-21).
※4参考:国税庁.「No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)」.,(参照2025-04-21).
贈与税の計算方法
贈与税の計算方法には、暦年課税と相続時精算課税の2種類があります。
暦年課税
暦年課税とは、1月1日~12月31日の1年間に贈与を受けた財産の合計額を基に贈与税を計算する方法で、計算式は以下の通りです(※1)。
(1年間に贈与を受けた財産の合計額 - 基礎控除額<110万円>) × 贈与税率
なお、贈与税率は基礎控除後の課税価格によって異なる他、贈与を受けた財産が一般贈与財産か、特例贈与財産かによっても違いがあります。一般贈与財産とは、親から未成年の子、あるいは夫婦間や兄弟姉妹間などで贈与する財産です。
一方の特例贈与財産とは、受贈者が父母や祖父母といった直系尊属から贈与される財産です。例えば、祖父から孫へ、父から18歳以上(贈与を受けた年の1月1日時点の年齢)の子への贈与などがこれに該当します(※2)。
それぞれの贈与税率は以下の通りです(※1)。
【一般贈与財産(一般税率)】
基礎控除後の課税価格 | 税率 | 控除額 |
200万円以下 | 10% | – |
300万円以下 | 15% | 10万円 |
400万円以下 | 20% | 25万円 |
600万円以下 | 30% | 65万円 |
1,000万円以下 | 40% | 125万円 |
1,500万円以下 | 45% | 175万円 |
3,000万円以下 | 50% | 250万円 |
3,000万円超 | 55% | 400万円 |
【特例贈与財産(特例税率)】
基礎控除後の課税価格 | 税率 | 控除額 |
200万円以下 | 10% | – |
400万円以下 | 15% | 10万円 |
600万円以下 | 20% | 30万円 |
1,000万円以下 | 30% | 90万円 |
1,500万円以下 | 40% | 190万円 |
3,000万円以下 | 45% | 265万円 |
4,500万円以下 | 50% | 415万円 |
4,500万円超 | 55% | 640万円 |
上記の贈与税率表を基に贈与税を計算しますが、一年の間に一般贈与財産と特例贈与財産の両方を贈与された場合は、まずその年の贈与財産の合計額を一般税率で計算し、求めた税額から一般贈与財産の割合に応じた税額を計算します(※1)。次に、全ての財産を特例税率で計算した税額に占める特例贈与財産の割合に応じた税額を計算し、先に求めた一般贈与財産分の税額との合計額を算出する流れです。
例えば一般贈与財産が200万円、特例贈与財産が300万円だった場合、その年の贈与合計額は200万円 + 300万円 = 500万円です。これに、まず一般贈与税率を用いた計算式を使用すると、(500万円 - 110万円) × 20% - 25万円 = 53万円となります。総額500万円のうち、一般贈与財産が占める割合は200万円 / 500万円 = 0.4であるため、53万円 × 0.4=21万2,000円となります。
同様に、特例贈与財産分の計算式を用いると、(500万円 - 110万円) × 15% - 10万円 = 48万5,000円です。総額500万円のうち、特例贈与財産が占める割合は300万円 / 500万円 = 0.6であるため、48万円5,000円 × 0.6 = 29万1,000円です。先に求めた一般贈与財産分と合算すると、21万2,000円 + 29万1,000円 = 50万円3,000円がその年に納める贈与税額となります。
※1参考:国税庁.「No.4408 贈与税の計算と税率(暦年課税)」.,(参照2025-04-23).
※2参考:国税庁.「財産をもらったとき」.,(参照2025-04-23).
相続時精算課税
相続時精算課税とは、60歳以上の父母や祖父母などから、18歳以上の子または孫などに対して財産を贈与した際に選択できる制度です。受贈者は2,500万円までの贈与について非課税になる他、超過した部分についても一律20%の課税となるため、最大で55%もの税が課せられる暦年課税に比べると税制上有利になる場合もあります(※)。また2,500万円の特別控除とは別に、年ごとに110万円の基礎控除も適用されます。
具体的な計算式は以下の通りです。
((贈与額 - 110万円) - 2,500万円) × 20%
例えば贈与額が3,000万円だった場合、(3,000万円 - 110万円 - 2,500万円)× 20% = 78万円を贈与税として納めることになります。
なお、ここでいう贈与額とは年間ではなく、贈与者が亡くなるまでに受けた累計額です。特別控除額は2,500万円を限度とし、数年に分けて適用することもできます。ただし、一度相続時精算課税を選択すると、もう一方の計算式である暦年課税に変更することはできない点に注意が必要です。
※参考:国税庁.「No.4103 相続時精算課税の選択」.,(参照2025-04-22).
相続と贈与、どちらが良いの? 選び方のポイント
これらの違いを踏まえると「結局、相続と贈与、どちらの方法が自身にとって適しているのか?」と迷われる方もいるでしょう。実は、必ずしもどちらか一方を選ぶだけでなく、それぞれの制度の特性を理解し、両者を計画的に組み合わせることも、有効な資産承継の選択肢となり得ます。具体的に、相続と贈与を併用した場合、税負担はどのように変わるのかを、計算例で見ていきましょう。
例えば、配偶者を亡くした父親が子1人に自分の財産である1億円を渡したい場合、全額を相続した場合の税金は1,220万円です。計算式は以下の通りです。
1億円 - (3,000万円 + 600万円 × 1人) = 6,400万円
6,400万円 × 30% - 700万円 = 1,220万円
一方、父親が存命中、5年間にわたって年間110万円ずつを贈与していた場合、年間110万円までは贈与税が非課税となるため、子に対して550万円分を税負担なしで贈与できます。そして相続が始まったときには550万円分が減って相続する財産は9,450万円になります。その場合の相続税の計算式は以下の通りです。
9,450万円 - (3,000万円 + 600万円 × 1人) = 5,850万円
5,850万円 × 30% - 700万円 = 1,055万円
生前贈与を行わずに全額を相続した場合の相続税は1,220万円であるため、165万円の減額となります。このように、あらかじめ財産のいくらかを贈与しておいた上で相続した方が、納税額を抑えられます。
相続と贈与を併用する際の注意点
相続と贈与の併用には節税のメリットがある一方、いくつか注意しなければならない点があります。まず1つ目は、贈与から7年以内に贈与者が亡くなった場合、相続開始前7年以内に行われた贈与については相続財産と見なされることです(※)。
例えば、死亡前の5年間にわたって贈与を行っていたとしても、その5年間の贈与はなかったものと見なされ、相続財産として計算されることになります。この場合、生前贈与による恩恵を受けられなくなってしまうため、相続税対策として贈与を行うのなら、贈与者が元気なうちに取り組むのが得策です。
2つ目は、定期贈与と見なされるリスクです。定期贈与とは、一定期間にわたって一定の財産を贈与することで、例えば総額1,000万円を10年間にわたり、毎年100万円ずつ贈与するケースなどがこれに該当します。贈与税は年間110万円の基礎控除分までは非課税になるため、本来であれば年間100万円の贈与には課税されません。
しかし、定期贈与は一定の額を分割で贈与する行為に当たるため、「元々1,000万円を贈与する予定だった」と見なされ、1,000万円に対して贈与税が課される可能性があります。
贈与の時期や金額を一定にしなければ定期贈与と見なされるリスクは減りますが、目標の金額を贈与するのに時間がかかってしまうリスクがあるため、やはり早めに計画を立てることが大切です。
※参考:国税庁.「令和5年度相続税及び贈与税の税制改正のあらまし」P1.,(参照2025-04-22).
相続と贈与、どちらもうまく活用すれば節税に!
同じ財産を渡す場合でも、相続か贈与かによって税の計算に適用される税率や控除額に違いがあります。特に贈与税は、相続税より税率が高く、かつ控除額も少ないため、単体で利用するのはあまりおすすめできません。
生前贈与でいくらか財産を渡しておき、残りを相続する方法を利用すれば、相続か贈与のいずれか一方のみを選択するよりも節税になります。ただし、贈与者が亡くなる前7年前以内(または相続開始前7年以内)の贈与は相続分の財産として加算されてしまうため、相続と贈与を併用するのなら早めに行動することが大切です。
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