土地活用コラム
介護施設経営とは?土地活用の新しい選択肢で安定経営と地域貢献の両立を
高齢化が進む日本では、介護施設の需要が年々高まっています。総務省の統計によれば、2040年には国内の全人口のうち65歳以上の人口が約35%となる見込みであり、その結果として介護サービスを必要とする高齢者も急増します。こうした背景の中、土地オーナーの間で注目を集めているのが「介護施設経営」という土地活用の方法です。
介護施設経営は、長期的な安定収入を得やすく、社会貢献にもつながる魅力的な活用方法です。しかし、初期投資の大きさや運営パートナー選びの難しさ、規制対応など、成功のために押さえるべきポイントも多く存在します。
本記事では、介護施設経営の種類、メリット・デメリット、他の土地活用との比較、そして始める際の具体的なポイントを体系的に解説します。
※参考:厚生労働省.「我が国の人口について」,(参照2025-08-26).
土地活用としての介護施設経営とは?
土地活用の一種である介護施設経営は、土地を所有するオーナーがその土地に介護施設を建設し、自ら運営するというものです。運営事業者に土地や建物を貸し出し、賃料収入を得るという形の経営方法もあります。アパート経営や駐車場経営と比べて収益期間が長期にわたる傾向があり、運営事業者が土地や建物をまとめて借り、オーナーに一定の賃料を保証する「一括借り上げ契約」を利用すれば、空室リスクも低減できます。
高齢化に伴い、介護施設の需要は今後も堅調に増加する見込みです。特に都市部では介護施設に空きが出るのを待っている人が多く、地方でも一定のニーズが存在します。
介護施設の主な種類
介護施設には複数の形態があり、それぞれ規模や運営方式、立地条件が異なります。主な種類は以下の通りです。
- 有料老人ホーム(介護付き・住宅型)
- サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)
- グループホーム
- 小規模多機能型施設
介護付き有料老人ホームは、食事や入浴、排せつなど日常生活全般の介護サービスを提供する施設です。住宅型は生活支援サービスが中心で、介護は外部事業者と契約して実施します。いずれも都市部では需要が高く、規模や立地により入居率が左右されます。
サービス付き高齢者向け住宅は、バリアフリー設計の賃貸住宅に安否確認や生活相談サービスを組み合わせた施設です。比較的自立した高齢者が対象で、国の登録制度に基づき整備されます。敷地面積や間取りは柔軟に設定できますが、入居者のニーズに合った立地選びが重要です。
グループホームは認知症の高齢者が少人数で共同生活を送る施設で、家庭的な雰囲気を重視します。住宅街や地域密着型の立地が好まれ、地域住民との交流を図りやすい点が特徴です。
小規模多機能型施設は通所介護・訪問介護・短期宿泊を一体的に提供する施設です。利用者の生活スタイルに合わせて柔軟にサービスを組み合わせられるため、地域包括ケアの拠点となります。
これらの施設は、それぞれ運営の難易度や初期投資額、行政手続きの内容が異なります。土地活用として選ぶ場合は、施設の性格と立地条件が合致しているかを十分に検討することが大切です。
介護施設の需要動向
冒頭でも触れた通り、日本の高齢化率は年々上昇しています。総務省の統計によると2020年時点で約3,602万人だった65歳以上人口は、総人口が減っているにもかかわらず2040年時点で約3,928万人に増え、その割合は35%に達する見込みです。今後も人口減少と少子高齢化は進み続け、2070年には高齢化率が39%の水準となると予測されています。
この数字からも明らかなように、介護施設の需要は増え続ける見込みである一方、2025年現在では介護施設の不足が深刻化しています。特に都市部では土地や建築費の高騰により施設整備が追いつかず、入居待機者が多数存在します。
一方、地方では人口減少が進みながらも、高齢化率は都市部以上に高く、地域密着型の施設整備が急務です。施設需要は地域ごとに差がありますが、全国的には介護サービスの担い手不足も課題となっています。
そのため、土地活用として介護施設経営を検討する場合、立地の需要動向を事前に調査し、事業計画に反映させることが重要です。
※参考:厚生労働省.「我が国の人口について」,(参照2025-08-26).
土地活用として介護施設を経営するメリット
介護施設経営は、他の土地活用と比べて長期的かつ安定的な収益を見込みやすい事業と言えます。特に一括借り上げ契約では、契約期間中は運営事業者が施設を丸ごと借りるため、空室リスクを大幅に抑えられる可能性が高いです。契約期間は10〜20年に及ぶことも多く、安定性が高いのが特徴です。
また、節税効果も無視できません。土地は更地のままだと一定の固定資産税が課されますが、介護施設を建てると課税評価額が下がる場合があります。例えば都市部で更地に課税される固定資産税が年間100万円だった土地が、施設建築後には約60万円に軽減されるケースもあります。さらには、相続税評価額も下がることで、将来的な相続税対策にもつながります。
社会貢献面では、高齢者の住まいとケアの場を提供することで地域の福祉向上に寄与します。介護職員や看護師などの雇用創出にもつながり、地域経済の活性化にも寄与します。
※参考:総務省.「固定資産税の概要」,(参照2025-08-26).
土地活用として介護施設を経営する際の注意点
介護施設経営には多くのメリットがありますが、同時にいくつかのリスクや課題も存在します。
まず、施設建築には高額な初期投資が必要です。構造や設備は介護保険法などの基準を満たす必要があり、バリアフリー設計や介護設備の導入、耐震性確保などにコストがかかります。設計費・許認可費用・外構工事なども含めると多額の費用がかさみ、数千万円から数億円に及ぶこともあるでしょう。
運営事業者の経営状況は安定収益を左右します。実際に、契約期間中に運営事業者が経営難から撤退したケースもあり、その場合は新たな借り手を探す必要が生じます。また、契約終了後は介護施設として再利用できない場合、他用途への転用に高額な改修費がかかることもあります。
立地による集客リスクも無視できません。厚生労働省の調査によると、都市部の有料老人ホームの増加率は全国平均よりも高く、人口当たりの定員数も多いようです。また九州地方も高首位順とされています。こうした差は運営収益に直結するため、事前に需要調査や周辺競合施設の状況を確認し、将来的な集客リスクを把握することが重要です。
※参考:厚生労働省.「有料老人ホームの現状と課題・論点について」,(参照2025-08-26).
他の土地活用方法との比較
介護施設経営は、他の土地活用と比較して特徴的な収益構造を持っています。他の土地活用方法の代表例である、賃貸住宅経営、駐車場経営、商業施設経営の3つと比較してみましょう。
土地活用方法 | 収益性 | 初期投資 | 管理負担 | 契約期間 |
---|---|---|---|---|
介護施設経営 | 高い(長期安定) | 高額 | 中〜高(委託可) | 長期(10〜20年) |
賃貸住宅経営 | 中〜高(変動あり) | 中〜高 | 中 | 中期(2〜5年) |
駐車場経営 | 低〜中 | 低 | 低 | 短期(1年未満〜数年) |
商業施設経営 | 高(立地依存) | 高額 | 高 | 中期(5〜10年) |
賃貸住宅経営は入居者の入れ替わりによって収入が変動しやすく、駐車場経営は安定性は高いものの収益性が低くなりがちです。これに対し、介護施設は長期契約によって比較的安定した賃料が見込めます。
初期投資の面では、駐車場や小規模店舗に比べて大きな資金が必要です。商業施設や倉庫活用と同等かそれ以上の投資規模になる場合もありますが、その分契約期間が長く、運営が安定すれば投資回収の見通しを立てやすいのが利点です。
運営難易度と管理負担については、賃貸住宅や駐車場に比べて専門性が高く、介護サービス提供者との連携が不可欠です。オーナー自身が直接運営に関わらない場合でも、信頼できる運営事業者を選定し、契約管理や施設維持管理を適切に行う必要があります。
介護施設経営開始のステップ
介護施設経営を始めるには、立地の選定から運営事業者との契約、資金計画まで複数のプロセスを経る必要があります。以下では、介護施設経営を始める際の主なステップを順を追って解説します。
建築・運営に関する規制や基準を確認する
介護施設は、高齢者が安心・安全に生活できる環境を提供するため、多くの法令や基準を満たす必要があります。まず建築に当たっては建築基準法に基づく構造・用途の適合性を確認しなければなりません。敷地面積や用途地域の制限、避難経路や採光の確保など、法的条件を満たす設計が求められます。
次に、消防法による防火・避難設備の基準も重要です。スプリンクラーや火災報知器、防火区画の設置、避難経路の確保などは必須条件であり、消防署による検査に合格する必要があります。
さらに、バリアフリー法(高齢者・障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律)に基づき、段差解消や手すり設置、車いすの通行幅確保など、高齢者に配慮した建築仕様が求められます。
運営に関しては、介護保険制度に基づく指定基準があります。これは施設の種類ごとに異なり、職員配置基準や人員の資格、提供するサービス内容が細かく定められています。開業するには、都道府県や市区町村への指定申請が必要で、許可を受けて初めて介護保険サービスを提供できます。
なお、施設が「特定施設入居者生活介護」の指定を受けることで、国や自治体の補助金の対象となる場合があります。指定を受けるには、介護職員の配置基準やサービス提供体制、施設設備など、介護保険制度で定められた条件を満たす必要があります。この指定を受けると、介護保険制度と連携した運営が可能になり、入居者へのサービスの幅が広がる他、収益性の向上にもつながります。さらに、初期投資の一部を補助金で賄える可能性もあるため、計画段階から制度活用を見据えて準備を進めることが重要です。
これらの基準や規制を十分に理解し、設計段階から反映させれば、開業後のトラブルや改修費用の発生を防ぐことが可能です。
※参考:国土交通省.「建築基準法制度概要集」,(参照2025-08-26).
※参考:総務省消防庁.「認知症高齢者グループホーム等に係る消防法令等の概要」,(参照2025-08-26).
※参考:国土交通省住宅局建築指導課「令和3年3月改正「高齢者、障害者等の円v滑な移動等に配慮した建築設計標準」の解説」,(参照2025-08-26).
※参考:e-Gov.「指定居宅介護支援等の事業の人員及び運営に関する基準」,(参照2025-08-26).
※参考:厚生労働省.「特定施設入居者生活介護」,(参照2025-08-26).
契約方法を決める
介護施設経営では、土地や建物の貸し方によって収益構造やリスクの分担が変わります。契約方式を選ぶ際は、初期投資額や長期的な収益性だけではなく、契約満了後の活用方法も視野に入れることが大切です。ここでは代表的な4つの契約方式をご紹介します。
土地の賃貸(事業用定期借地契約)
土地の賃貸(事業用定期借地契約)は、土地だけを運営事業者に貸し、借り手である運営事業者が介護施設を建設する方式です。オーナーは建築費を負担せずに土地活用できるため、初期投資を抑えられます。契約期間は20〜50年と長期になり、契約期間中は安定した地代収入が見込めるでしょう。
なお契約満了後や運営事業者撤退時などは、オーナー自身で各種対応や契約条件の調整が必要になることもあります。
建物の賃貸(一括借り上げ・サブリース契約)
建物の賃貸(一括借り上げ・サブリース契約)はオーナーが施設を建設し、運営事業者に一括で貸し出す方式です。空室リスクは運営事業者が負担するため、契約期間中は安定した賃料収入を得られるでしょう。契約期間は10〜20年程度が一般的で、長期的な収益が見込めます。
一方、この方法は初期投資がオーナー負担となり、建設費用が高額になります。また契約期間終了後に同条件で再契約できる保証はなく、事業者の経営状況によっては途中解約となるリスクもあります。
土地・建物の売却
土地・建物の売却は、土地と建物をまとめて運営事業者などの第三者に売却する方法です。短期間でまとまった資金を得られるため、他の投資や資産運用に資金を回すことが可能です。管理や運営に関わる必要がなくなる点もメリットです。
ただし、売却後は継続的な賃料収入を得る機会がなくなります。また売却価格は立地条件や需要動向に左右されるため、希望額で売却できない可能性もあります。
共同事業・SPC方式
共同事業・SPC方式は、オーナーと介護事業者が共同で出資し、特定目的会社(SPC)を設立して事業を行う方式です。利益とリスクを分担でき、事業者と密接な関係を保ちながら運営できます。大型施設や複合施設の開発に向いている方法です。
一方で、契約内容や出資比率によってはオーナーの経営関与度が高まり、事業運営の意思決定に時間を要する場合があります。合意形成が難しくなるケースもあるため、事前の取り決めが重要です。
運営事業者を選ぶ
介護施設経営では、信頼できる運営事業者の選定が成功の鍵を握ります。まずは過去の運営実績を確認し、入居率の推移や施設の評判、提供サービスの質を評価します。
次に、経営の安定性をチェックします。財務状況や介護保険制度改正への対応力、人材確保の実績は長期運営の安定性に直結します。実績のある運営事業者ほど、突発的な経営悪化のリスクを抑えられます。
また日常的な連絡や報告体制が整っているかも重要です。入居者や家族への対応方針、施設運営上の課題共有の仕組みなど、オーナーとのコミュニケーションを重視する運営事業者を選びましょう。
契約条件も比較し、賃料水準、契約期間、解約条件、修繕負担の有無などを明確にしておくことで、安定した事業の運営が可能になります。
資金計画を立て収益をシミュレーションする
介護施設経営は初期投資が高額になるため、慎重な資金計画が必要です。建築費用は構造や規模によって異なりますが、鉄筋コンクリート造の施設では数億円規模になることもあります。これに設計費や許認可取得費、外構工事費などを加えると、さらにコストが膨らみます。
一方で、安定的な賃料収入が得られれば、長期的な投資回収が可能です。事前に家賃収入と運営経費(維持管理費、修繕費、保険料、税金)を見積もり、キャッシュフローをシミュレーションすることが欠かせません。
また自己資金だけではなく、金融機関からの融資活用も検討しましょう。金融機関は事業計画の収益性、立地条件、運営事業者の信用力を重視して融資判断を行います。複数の金融機関に相談し、条件を比較検討することが望ましいです。
このように、介護施設経営は計画段階から多角的な検討が求められる土地活用方法です。入念な準備を行うことで、長期的な安定収益と地域社会への貢献を両立できる可能性が高まります。
まとめ
介護施設経営は、高齢化の進展による需要の高さを背景に、長期的な安定収益と地域福祉への貢献を同時に実現できる土地活用方法です。本記事で解説した通り、施設形態の選択や立地条件の見極め、運営事業者の選定、資金計画の策定など、事前準備には多くの検討事項があります。
特に、遊休地を有効活用したい、安定した賃料収入を長期間得たい、地域社会に貢献したいと考える土地オーナーに向いています。ただし初期投資の規模や法的基準の厳格さから、専門的な知識と計画性が不可欠です。
土地活用による介護施設運営を成功させるためには、不動産や介護事業に詳しい専門家へ早い段階で相談し、立地条件や収益シミュレーション、契約内容の適正性を総合的に検証することが大切です。貝沼建設では、介護施設経営に関するご相談や事業計画のご提案を行っています。ご興味のある方は、ぜひお気軽にお問い合わせください。
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