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相続税評価を下げる「地積規模の大きな宅地」制度のポイントを分かりやすく解説
相続において、土地の評価額は税額に大きく影響します。特に面積の広い宅地では評価方法によって金額が大幅に変わることもあるため、できるだけ評価額を低くしたいと考える方もいるでしょう。面積の広い宅地の評価額を通常より低くする方法として「地積規模の大きな宅地」制度がありますが、承認を得るには細かな条件を満たす必要があります。
本記事では「地積規模の大きな宅地」制度の定義や導入された背景、適用要件、注意点などを分かりやすく解説します。理解不足によって制度が適用されない事態を避けるためにも、しっかりと確認してみてください。
地積規模の大きな宅地とは?
前述の通り、地積規模の大きな宅地とは、相続税の評価において一定の条件を満たす広い土地に通常よりも低い評価額を適用する制度です。これは2018年(平成30年)1月1日以降の課税分から適用される制度(※)で、従来の「広大地評価」に代わる形で位置づけられました。
この制度は、土地が広ければ広いほど開発分譲の際に道路や公共用地の設置が必要となり、実質的に使えない部分が生じる点を考慮して評価額を軽減するものです。ただし、かつての広大地評価とは異なり、「地積要件」や「地区区分」「容積率」など明確な基準が設けられており、評価の適用範囲が限定的となっています。
地積規模の大きな宅地として適用されると、通常の評価額から一定の割合が控除され、相続税の負担軽減が見込まれます。本制度は、広大地評価とは異なる新たな評価方法として定義されているため、その適用要件や仕組みを正確に理解することが重要です。
地積規模の大きな宅地として認められる要件については、後ほど改めて解説します。
※参考:国税庁.「No.4609 地積規模の大きな宅地の評価」 ,(2024-06-01).
「地積規模の大きな宅地」制度が導入された背景
「地積規模の大きな宅地」制度が導入された背景には、従来の広大地評価の制度的な課題が挙げられます。
広大地評価は、開発分譲時に生じる道路用地などの潰れ地を考慮して宅地の評価額を引き下げる仕組みです。しかし評価基準が抽象的で分かりにくく、適用の可否について税理士や不動産鑑定士などの専門家の間で判断が分かれ、評価結果にばらつきが生じることが課題とされていました。
このような評価の不透明性や公平性の欠如を解消するために評価通達が改正され、創設されたのが「地積規模の大きな宅地」制度です。新制度では、評価実務の標準化とトラブル回避を目的として、地積や容積率などの具体的な要件を明示しています。
適用される土地の要件とは?
地積規模の大きな宅地として相続税評価の軽減が適用されるためには、評価通達に定められた複数の要件を満たす必要があります。適用の目安として設定されている条件は、以下の通りです。
- 所在地の区分に応じた地積要件を満たしている
- 指定容積率が400%未満である(※)
- 市街地的形態を有する地域に所在している
- 工業専用地域などの特定の用途地域に該当していない
- 戸建住宅用地としての開発分譲が想定できる形状・立地である
まず地積要件については地域によって基準が異なり、三大都市圏の一部地域では500平方メートル以上、それ以外の地域では1,000平方メートル以上の宅地が対象とされます(※)。この面積は「開発が必要とされるほどの規模」を示す目安とされています。
また容積率が400%以上の地域は、高度利用が前提とされているため、本制度の対象外です。対象地は市街地的形態を備えており、戸建住宅用地としての分譲が想定されるエリアである必要があります。用途地域にも条件があり、工業専用地域などの特定の用途制限のある地域に所在する宅地は、原則として制度の対象になりません。
さらには、形状や立地条件も評価に影響を与える要素です。例えば、著しく不整形な土地や接道条件が不十分で開発が困難な場合は、制度の対象外と判断されることがあります。制度の対象外となる土地については後ほど改めて解説します。
※参考:国税庁.「No.4609 地積規模の大きな宅地の評価」,(2024-06-01).
適用可否を判断する際の注意点
地積規模の大きな宅地として制度の適用を検討する際には、評価通達に示された要件だけでなく、現地の状況や土地の事情も踏まえた判断が必要です。路線価図や用途地域図などの図面情報だけで判断するのではなく、実際の土地利用や開発の可否を確認しましょう。
特に、接道状況は慎重に確認すべきポイントです。建築基準法第43条に定められた接道義務を果たしていない土地では、建築行為や開発が制限される可能性があるため、制度の適用対象外となることもあります(※)。また市街化調整区域に指定されている土地や都市計画道路予定地に該当する場合などは、形式的な要件を満たしていても実質的には対象とならないケースもあるため注意が必要です。
※参考:建築基準法.「第四十三条」,(2025-06-01).
市街化調整区域にある土地は対象になる?
「地積規模の大きな宅地」制度が適用されるためには、先述の通り対象の土地が市街地的形態を有していることが要件の一つとなっています。そのため市街化調整区域に所在する土地は原則として、この制度の対象外とされています。市街化調整区域は都市の無秩序な拡大を防ぐことを目的とし、開発行為が厳しく制限されているため、戸建住宅用地としての分譲が想定されにくいと判断されるためです。
しかし市街化調整区域にある土地であっても、一定の条件を満たすことで例外的に対象となる可能性があります。例えば、自治体から開発許可が出ていて、実際に戸建住宅が建築されている地域や、既存の住宅街に隣接しており、上下水道や道路などのインフラが整備されているエリアなどが該当します。評価実務では、当該土地の周辺状況や行政の都市計画に基づく開発方針も踏まえて判断されるため、一律には扱われません。
都市計画道路予定地は対象になる?
都市計画道路に指定された土地が地積規模の大きな宅地として評価の対象になるかどうかは、土地の利用制限の有無や、評価単位の考え方に左右されます。都市計画道路にかかっているからといって、必ずしも土地全体が対象外となるわけではありませんが、対象外となるケースもあります。
都市計画道路の予定地は、都市計画決定の段階にあるか事業決定まで進んでいるかによって建築制限の程度が異なります。一定の利用制限を受ける区域では、宅地として自由に活用することが難しく、地積規模の大きな宅地として評価の対象から外れることもあります。例えば、敷地全体のうち道路予定地に指定された部分が一部であれば、その該当部分の地積だけを除外して評価することになるのです。
このように土地の一部に都市計画道路が重なっている場合は、対象面積の算定や評価単位の取り扱いに注意が必要です。対象外となる部分の取り扱いを誤ると、評価結果が大きく変わる恐れがあります。
評価額の算出方法
地積規模の大きな宅地に該当すると認められた場合、その宅地の相続税評価額は、通常の宅地と異なる方法で計算されます。具体的には通常の宅地評価額に「規模格差補正率」を乗じることで、評価額が減額される仕組みです。
規模格差補正率とは、面積の広い宅地ほど単価が低くなるという市場の実態を反映した補正率です。広大な土地は分筆や開発にコストがかかる上、需要も限られるため、1平方メートル当たりの価格が相対的に下がる傾向にあります。これを評価額に反映するため、一定の補正率を用いて調整するのが本制度の特徴です。
評価額の算出方法は、路線価が定められている「路線価地域」の場合と、路線価が定められていない「倍率地域」の場合で異なります。それぞれの算出方法は以下の通りです。
路線価地域の場合 | 路線価 × 奥行価格補正率 × 各種画地補正率 × 規模格差補正率 × 地積(※1) |
倍率地域の場合 | 以下、二つのうち価額の低い方を評価額とします。
①固定資産税評価額 × 倍率(※2) ②その宅地が標準的な間口距離および奥行距離を有する宅地であるとした場合の1平方メートル当たりの価額 × 普通住宅地区の奥行価格補正率 × 不整形地補正率等 × 規模格差補正率 × 地積(※1) |
例えば、ある宅地の路線価が1平方メートル当たり200,000円、地積が600平方メートル、規模格差補正率が0.8の場合、評価額は以下のようになります。
200,000円 × 600平方メートル × 0.8 = 96,000,000円
一方、通常評価では補正率を掛けないため、評価額は以下の金額が適用されます。
200,000円 × 600平方メートル = 120,000,000円
このように地積規模の大きな宅地の条件を満たせば評価額が大きく下がり、相続税の節税につながるのです。
※1参考:国税庁.「No.4609 地積規模の大きな宅地の評価」 ,(2024-04-01).
※2参考:国税庁.「No.4606 倍率方式による土地の評価」 ,(2024-04-01).
造成費補正との違い
地積規模の大きな宅地の評価に用いられる規模格差補正と土地の物理的状態に応じて適用される造成費補正は制度上異なる補正方法であり、それぞれ目的や適用条件が異なります。
規模格差補正は土地の面積が大きくなるほど1平方メートル当たりの単価が下がるという市場実態を反映するためのもので、広い宅地であること自体が評価額を引き下げる要因となります。一方、造成費補正は評価対象地が傾斜地・無道路地・高低差のある土地など通常の宅地利用に支障がある場合に、その造成工事にかかる費用分を差し引いて評価額を調整する補正です。造成費補正が適用される例としては、擁壁の設置が必要な急傾斜地や埋立て、整地が必要な不整形地などが挙げられます。
これらの補正は土地の規模と状態という異なる観点から評価額を調整するものです。評価実務では、いずれか一方しか使えないという決まりはなく、土地ごとの特性に応じて適切に選択、併用されます。そのため市街地農地などでは、状況によっては両者を併用することも可能となります。
評価単位は“利用単位”で判断
相 続税における土地評価では「評価単位」が非常に重要です。評価は登記簿上の地番ごとに自動的に行われるのではなく、「実際にどのように利用されているか( = 利用単位)」を基準として判断されます。つまり一体的に使用されている複数の地番があれば、それらを一つの宅地として評価することがあります。
例えば、隣接する二つの土地が一つの住宅敷地や駐車場として使われていれば、それらを合わせて一つの宅地として評価するのが原則です。一方で同じ所有者であっても地番ごとに異なる用途で利用されていれば、それぞれ個別に評価されることもあります。
この利用単位による評価は、地積規模の大きな宅地に該当するかどうかの判断にも大きく関わります。一体的に利用されている土地の合計面積が基準を超えるかどうかによって、制度の適用可否が変わるからです。そのため地積や登記情報だけで判断せず、実質的な利用状況を踏まえて評価単位を見極めることが重要です。
複数地番にまたがる場合の注意点
土地が複数の地番にまたがっている場合でも、登記情報に基づいて一律に評価されるわけではありません。実際には、それぞれの地番の地域や利用実態などにより、評価単位が分けられることがあります。地番ごとに用途地域や容積率、接道条件が異なる場合は、地積規模の大きな宅地に該当するかどうかの判断に影響するのです。
例えば、一体的に利用されていると思っていた土地でも、その一部に工業専用地域が含まれていれば評価対象から除外される可能性もあります。特に地積が適用要件ぎりぎりの水準にある場合は、注意が必要です。地番ごとの評価を誤ることで、本来受けられるはずの評価額の減額が適用されず、結果として相続税額が大きくなるリスクがあります。
節税効果と活用のポイント
ここまで解説してきた通り、「地積規模の大きな宅地」制度を活用することで、相続税の課税対象となる宅地の評価額を大きく下げられる可能性があります。中には相続税額が数百万円単位で軽減されるケースもあるため、節税効果の大きさから、近年では制度の適用を見越して広い土地を購入したり買い替えたりする動きも見られます。
しかし、この制度はあくまで一定の厳格な条件を満たした宅地に限って適用されるものであり、全ての大規模宅地が対象になるわけではありません。土地を購入しても用途地域や接道状況、評価単位の判断などによって適用外となる可能性があるため、制度適用だけを目的とした取得はリスクを伴います。
また同じ面積でも地域や利用状況によって評価結果が異なることから、他の事例との単純な比較も適切とはいえません。実際の適用可否や節税効果については、専門家の意見を踏まえた上で慎重に判断することが重要です。
相続対策として活用しやすい土地の特徴
「地積規模の大きな宅地」制度の恩恵を受けやすい土地としては、都市計画区域内の市街化区域に所在しており、かつ用途地域が第一種または第二種低層住居専用地域など、戸建住宅の分譲が想定される地域が挙げられます。加えて容積率が400%未満(※)で整形地であることや複数の公道に接しているなど開発のしやすい地形であるなど、明らかに適用条件を満たしていれば、活用できる可能性が高いです。
一方で、市街化調整区域のように開発が制限されている地域や、旗竿地のように形状が不整形で建築や分譲に制約がある土地は注意が必要です。面積や地域要件を満たしていても、立地や接道状況などによって制度の対象外と判断される可能性があります。相続対策としてこうした土地の購入を検討する場合は、制度適用の可能性ばかりに着目せず、実際の活用計画や資産全体のバランスを踏まえた上で、税理士や不動産の専門家と相談しながら進めることが望ましいでしょう。
※参考:国税庁.「No.4609 地積規模の大きな宅地の評価」 ,(2024-06-01).
制度利用時のよくある失敗
「地積規模の大きな宅地」制度は、一定の条件を満たすことで相続税評価額を下げられる有利な仕組みです。しかし制度の内容を正しく理解していないと、誤解や申告ミスにつながります。
例えば、郊外に1,000平方メートルを超える土地がある場合でも、その地域が工業専用地域であったり容積率が400%以上であったりすると、制度の対象にはなりません(※)。また土地の一部が適用外の用途地域に含まれているにもかかわらず、全体を対象として申告してしまった場合、実際には要件を満たしていないというケースもあります。
他にも造成費補正と本制度の違いをしっかり理解できておらず、本来適用されるべき補正が見落とされることもあるでしょう。どの補正が適用されるかは土地の性質や状態により異なるため、個別の判断が必要です。
※参考:国税庁.「No.4609 地積規模の大きな宅地の評価」,(2024-06-01).
制度を利用する際は専門家への相談を
ここまで解説してきた通り、「地積規模の大きな宅地」制度は要件や評価方法が明確に見えても、実際には土地の利用状況や地域の特性によって判断が分かれるケースが多く、個人の判断ではリスクを伴います。
誤った申告をして税務調査で否認されると、追徴課税や延滞税といった予期せぬ負担が発生する恐れがあります。こうしたトラブルを防ぐためにも、評価の段階から税理士や土地家屋調査士などの専門家に相談することが重要です。
特に相続や不動産の売却を見据えて計画を立てる際は、早い段階で専門家に相談することで、土地の活用方針や節税対策の選択肢が広がります。制度の正しい理解と活用のためにも、専門的な視点を取り入れることをおすすめします。
まとめ
「地積規模の大きな宅地」制度は、一定の要件を満たすことで相続税評価額を大幅に引き下げられる可能性のある制度の一つです。制度を適切に活用できれば、数百万円単位で相続税が軽減されることもあり、長期的な相続税対策の一環としても注目されています。
一方で本制度は評価通達に基づく詳細な要件があり、地積や容積率だけでなく、立地や接道状況、用途地域といった多面的な条件を満たさなくてはなりません。制度の内容を正確に理解せずに申告を行うと、税務調査での否認につながるリスクもあるため、注意が必要です。
制度を有効に活用するには、早い段階から専門家に相談し、土地の評価や計画を的確に進めることが重要です。貝沼建設では、土地活用や土地の相続対策に関するご相談を受け付けています。現在所有している土地の活用や相続についてお悩みの方や、相続対策に土地の購入を検討している方は、お気軽にお問い合わせください。