土地活用コラム

住宅取得等資金の贈与|非課税特例を賢く活用するための完全ガイド

マイホームの購入には多額の資金が必要です。そのため、子どもや孫に資金援助してあげたいと考える方も多いでしょう。しかし、日本では財産をもらった側に贈与税が課されるため、「援助するとかえって負担になってしまうのでは?」と悩んでいる方もいるのではないでしょうか。そのようなときは、「住宅取得等資金に係る贈与税の非課税措置」を活用することで、贈与税の負担を大幅に軽減できます。

本記事では、住宅取得等資金贈与の非課税の特例に関する基礎知識や、制度を利用するメリット、注意点などについて解説します。

 

住宅取得等資金の贈与とは? 非課税特例制度の概要とメリット

住宅取得等資金の贈与とは、自分の住宅用家屋を新築・取得・増改築する際に、父母や祖父母といった直系尊属から必要な資金(住宅取得等資金)の贈与を受けて資金援助を受けることです。

日本では、個人が財産をもらった場合、その額に応じて贈与税が課されます。親や祖父母など身内からの贈与でも例外ではありません。ただし、住宅取得等資金贈与に関しては、一定の要件を満たせば贈与税が非課税となる特例制度が設けられています。

贈与税の非課税の特例

贈与税の非課税の特例とは、令和6年1月1日~令和8年12月31日までの間に、直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合に、一定の要件を満たすことによって、一定額まで贈与税が非課税になる制度です。

贈与税は一般的に10~55%と高い税率が適用されるため、援助を受けても大きな負担になる可能性があります(※)。しかし、特例が適用されれば、贈与額のうち最大1,000万円までが非課税となり、子どもや孫に大きな税負担を掛けずに住宅取得などのための資金を贈与することが可能になります。

※参考:国税庁.「No.4408 贈与税の計算と税率(暦年課税)」,(参照2024-04-01).

適用要件と対象となる資金

住宅取得等資金贈与の非課税特例の適用対象は、自己が居住する目的で使用する住宅の「新築・取得・増改築」にかかる資金です。ここでいう「住宅取得等資金」とは、家屋そのものにかかる費用だけではなく、その敷地の取得資金も含まれます。ただし、日本国内にある住宅用家屋に限られます。

具体的な要件は、以下の通りです。

  1. 【新築または取得の場合(※)】
    1. 登記簿上の床面積(マンションは専有部分)が40㎡以上240㎡以下であること
    2. 床面積の1/2以上が居住用であること
    3. 取得した住宅用家屋が以下いずれかに該当すること
      a.建築後、未使用の住宅
      b.昭和57年1月1日以降に建築された既存住宅
      c.地震に対する安全性基準を満たし、証明書類で確認できるもの
      d.上記b、cに該当しない場合でも、耐震改修を行い、都道府県知事への申請および適合証明があるもの

 

  1. 【増改築等の場合(※)】
    1. 増改築後の登記簿上の床面積が40㎡以上240㎡以下であること
    2. 床面積の1/2以上が居住用であること
    3. 自己所有かつ居住用家屋に対して行われた工事であること
    4. 工事内容が以下のいずれかで証明できること
      a.確認済証の写し
      b.検査済証の写し
      c.増改築等工事証明書など
    5. 工事の費用が100万円以上で、そのうち1/2以上が自己の居住用家屋にかかる工事費であること

このように、住宅の種類や工事内容に応じて要件が細かく定められているため、事前に確認しておくことが重要です。

※参考:国税庁.「No.4508 直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の非課税」,(参照2024-04-01).

住宅取得等資金の贈与を受けるメリット

非課税の特例を利用して住宅取得等資金の贈与を受けるメリットは、贈与税の負担を大きく軽減できる点です。

通常、贈与税率は10~55%と高めに設定されているため、たとえ父母や祖父母からの資金援助であっても、高額の贈与税が発生する可能性があります。しかし、一定の要件を満たしている場合、贈与税が非課税となります。非課税限度額は住宅の性能によって異なり、詳細は以下の通りです。

  • 省エネルギー性能や耐震性能、バリアフリー性能が高い住宅の場合:最大1,000万円まで非課税
  • 上記以外の住宅の場合:最大500万円まで非課税

住宅取得に当たっての経済的負担を軽減でき、資金計画にも大きなゆとりが生まれるでしょう。

生前贈与加算の適用対象外になるメリットも

住宅取得等資金の贈与を受けるもう一つのメリットは、「生前贈与加算」の適用対象外になる点です。相続税法では、次のような規定があります(※)。

  • 相続や遺贈で財産を取得した人が、相続開始前3年以内に被相続人から贈与を受けていた場合、その贈与財産は贈与税がかかっているかどうかに関係なく、相続税の課税価格に加算される
  • 加算された贈与財産に対してすでに支払った贈与税がある場合は、その金額が相続税額から差し引かれる

例えば、父親が亡くなる1年前に、子どもに対して1,000万円を贈与していた場合、生前贈与加算の決まりにより、その贈与額は相続財産と見なされます。贈与された時点で納めた贈与税額は相続税から差し引かれるものの、相続財産が増加すれば相続税が増える可能性があるため、子どもにとって大きな負担です。

しかし、住宅取得等資金の贈与に関しては、この生前贈与加算の適用対象外となります。たとえ贈与してから3年以内に贈与者が亡くなったとしても、受贈者(相続人)の負担が増える心配はありません。

※参考:e-Gov法令検索.「相続税法」.”第十九条”,(参照2025-05-23).

 

住宅取得等資金の贈与を受けるための要件と注意点

住宅取得等資金の贈与を受け、非課税の特例の対象となるには、一定の要件を満たしている必要があります。ここでは非課税特例の適用対象となるための要件と注意点について解説します。

受贈者の要件

非課税特例が適用されるには、受贈者が以下全ての要件を満たしている必要があります。

  1. 【受贈者に関する主な要件(※)】
    1. 贈与を受けた時点で、贈与者の直系卑属(贈与者は受贈者の直系尊属)であること
    2. 贈与を受けた年の1月1日において、18歳以上であること
    3. 贈与を受けた年の年分の所得税にかかる合計所得金額が2,000万円以下(新築等をする住宅用家屋の床面積が40㎡以上50㎡未満の場合は、1,000万円以下)であること
    4. 平成21年分から令和5年分までの贈与税の申告で、住宅取得等資金の贈与を受けた場合の贈与税非課税の適用を受けたことがないこと
    5. 自己の配偶者や親族など、一定の特別な関係がある人から住宅用家屋の取得、あるいは請負契約等による新築または増改築等をしたものではないこと
    6. 贈与を受けた年の翌年3月15日までに、住宅取得等資金の全額を充てて住宅用家屋の新築などをすること
    7. 贈与を受けたときに日本国内に住所を有していること
    8. 贈与を受けた年の翌年3月15日までにその家屋に居住すること、または同日後遅滞なくその家屋に居住することが確実に見込まれること

直系卑属とは、自分よりも後の世代で、直通する系統の親族です。具体的には、子どもや孫、養子が該当します。兄弟姉妹や甥、姪、子どもの配偶者などは対象とならない点に注意が必要です。

7については、たとえ日本国内に住所を有していても、受贈者が一時居住者であり、かつ贈与者が外国人または非居住者である場合は対象外となります。

8は贈与を受けた年の翌年12月31日までにその家に居住していない場合、特例の適用対象外となります。特例を受けていた場合、修正申告が必要です。

※参考:国税庁.「No.4508 直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の非課税」,(参照2024-04-01),(参照2024-04-01).

資金の用途に関する制限

非課税の特例が適用されるのは、自己が所有し、かつ居住の用に供する住宅用家屋の新築や取得、増改築の対価に充てる住宅取得等資金のみです。

一方で、たとえ直系尊属からの贈与であったとしても、以下のような用途は非課税特例の適用対象外になります。

  • マイカー購入資金
  • 孫の学費の援助資金
  • 生活費

さらに、非課税の特例を適用される場合、贈与された資金の一部ではなく、全額を住宅用家屋の新築や取得、増改築に充てることが条件です。半分を居住用住宅の取得に充て、残り半分を他の目的に使った場合は、非課税特例の適用を受けられません。

制度を利用する際は、使い道が住宅に限定されることをしっかり確認しておきましょう。

贈与税の申告と手続き

住宅取得等資金の贈与にかかる非課税特例の適用を受けるには、贈与税がかからない場合でも、贈与税の申告が必要です。申告しなければ特例は適用されませんので注意しましょう。

贈与を受けた年の翌年2月1日~3月15日までの間に、受贈者の納税地を管轄する税務署へ所定の書類を提出しなければなりません(※1)。提出する書類は以下の通りです(※2)。

  • 贈与税の申告書
  • 戸籍謄本
  • 合計所得金額を明らかにする源泉徴収票などの書類
  • 居住用家屋の新築や取得の契約書の写し
  • 登記事項証明書(贈与税の申告書に不動産番号を記載する場合は不要)
  • 耐震性・省エネ性等の証明書類

非課税の特例を受ける場合は、贈与税の申告をする全ての人が提出する申告書第一表に加えて、申告書第一表の二(住宅取得等資金の非課税の計算明細書)を併せて提出します。

※1参考:国税庁.「No.4508 直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の非課税」,(参照2024-04-01).
※2参考:国税庁.「住宅取得等資金の贈与税の特例に係る「チェックシート」及び「添付書類」の区分」,(参照2025-05-23).

 

非課税となる金額はいくら?贈与額と税金の関係

住宅取得等資金の贈与の非課税特例が適用された場合、具体的にどれくらい節税になるのでしょうか。ここからは、非課税限度額の過去の変動を説明すると共に、贈与額に応じた税金の計算例をご紹介します。

非課税限度額の変動(過去の改正と今後の動向)

住宅取得等資金の贈与に関する非課税特例は、昭和59年に創設された住宅資金贈与制度をルーツとしています。当初は300万円までを非課税とした上で、贈与額の1/5に税率を乗じて計算し、その値を5倍にして納税するという5分5乗方式が採用されていました(※1)。また、申告年を含めた向こう5年分の基礎控除額(110万円 ×5年分 = 550万円)までは贈与税の非課税枠である、というルールが適用されていました。このときの非課税特例の適用限度額は1,500万円です。

その後、平成21年に現制度である住宅取得等資金の贈与を受けた場合の贈与税の非課税制度が導入されましたが、当初の非課税枠は500万円でした。

以降、贈与税非課税枠は毎年のように変動を繰り返しましたが、令和6年度税制改正により、現在は質の高い住宅であれば1,000万円、それ以外の一般住宅であれば500万円を非課税限度額となります。

なお、ここでいう質の高い住宅の要件は、新築住宅および増改築後の住宅の性能によって以下のように決定されます(※2)。

  • 【新築住宅の場合】
    • 断熱等性能等級5以上(結露発生防止対策に関する基準を除く)かつ一次エネルギー消費量等級6以上
    • (令和5年末までに建築確認を受けた住宅または令和6年6月30日までに建築された住宅は断熱等性能等級4以上または一次エネルギー消費量等級4以上)
    • 耐震等級2以上または免震建築物
    • 高齢者等配慮対策等級(専有部分)3以上

 

  • 【既存住宅・増改築】
    • 断熱等性能等級4以上または一次エネルギー消費量等級4以上
    • 断熱等級(構造躯体の倒壊等防止)2以上または免震建築物
    • 高齢者等配慮対策等級(専有部分)3以上

以上が住宅取得等資金贈与の非課税の特例を受ける要件となります。税制は頻繁に改正されるため、今後も同様の特例が適用されるとは限りません。特に適用限度額はこれまで何度となく変動してきた歴史があるため、制度の利用を検討されている方は、最新の情報を確認し、計画的に進めることが重要です。

※1 参考:一般財団法人 不動産適正取引推進機構.「住宅取得等資金に係る贈与税の非課税措置昭和59年税制(住宅資金贈与制度創設)」,(参照2025-05-23).
※2参考:国土交通省.「住宅取得等資金に係る贈与税の非課税措置」,(参照2025-05-23).

贈与額に応じた税金の計算例

住宅取得等資金の贈与を受けた場合の贈与税の計算方法は、贈与額や居住用家屋の分類によって異なります。例えば、祖父母から800万円の贈与を受けて省エネ住宅など質の良い住宅の新築資金に充てた場合、質の良い住宅は1,000万円まで非課税となるため、受贈者はこの贈与について贈与税を納税する必要はありません。

一方、同額の贈与を受けて一般的な住宅の購入資金に充てた場合の非課税限度額は500万円であるため、「800万円 − 500万円」の300万円分には贈与税が課せられます。ただし、暦年課税の場合は基礎控除110万円が適用されるため、実際の課税価格は「300万円 − 110万円」の190万円です。

これに、暦年課税の場合の適用税率(2,000万円以下の場合は10%)を乗じると、「190万円 × 10%」で19万円が贈与税となります。

なお、非課税の特例を受けた後に贈与税の課税価格に参入される住宅取得等資金がある場合は、相続時精算課税選択の特例を適用するという選択肢もあります。

住宅取得等資金の贈与と他の制度との組み合わせ

住宅取得等資金の贈与は、他の制度と併用することも可能です。ここでは主に併用できる制度を2つ、ご紹介します。

相続時精算課税制度との比較

相続時精算課税制度とは、60歳以上の父母または祖父母などから、18歳以上の子どもまたは孫に対して財産を贈与した際に選択できる制度のことです。相続時精算課税を選択した場合、基礎控除110万円に加え、2,500万円までの特別控除が適用されます。

暦年課税よりも控除額が大きいところが特徴ですが、相続時精算課税を適用した分については、贈与者が亡くなった際に相続税の課税価格に加算されます。さらに、相続時精算課税の適用税率は一律20%になる点に注意が必要です。

なお、一度相続時精算課税を選択すると、暦年課税に変更することはできなくなります。

※参考:国税庁.「No.4103 相続時精算課税の選択」,(参照2025-05-23).

住宅ローン控除との併用

住宅ローン控除(住宅借入金等特別控除)とは、居住用住宅を新築、取得するために住宅ローンを利用した場合、毎年の住宅ローン残高の0.7%を最大13年間、所得税および住民税から控除される制度です。

住宅ローン控除を利用すれば所得税の納税負担を大幅に軽減できるため、住宅取得等資金の贈与非課税の特例と併用すれば、さらなる節税となります。

しかし、住宅ローン控除の適用対象となるのは、あくまで住宅ローンの残高分のみです。例えば5,000万円の質の高い住宅を新築する際に、1,000万円を直系尊属から贈与してもらったとします。この場合、贈与額1,000万円は非課税となり、残り4,000万円に対して住宅ローン控除が適用されます。

※参考:国税庁.「No.1213 認定住宅の新築等をした場合(住宅借入金等特別控除)」,(参照2025-05-23).

住宅取得等資金の贈与に関するQ&A

住宅取得等資金の贈与に関して、よくある質問をまとめました。

贈与税の申告は必要?

住宅取得等資金贈与の非課税の特例を適用した結果、たとえ贈与税が「0円」になる場合でも、贈与税の申告は行わなければなりません。この特例を受けるためには、贈与税の申告書に所定の書類を添付し、納税地の所轄税務署に提出しなければならないためです。

住宅取得等資金の贈与は、申告を忘れると非課税特例が適用されず、多額の贈与税が発生する可能性があります。「課税されないから安心」ではなく「申告して初めて特例が有効になる」という点に注意しましょう。

贈与を受けたお金で住宅ローンを返済できる?

住宅取得等資金の贈与は、あくまで居住用家屋の新築、取得、増改築の対価に充てるものです。従って、住宅ローンの返済に充てる目的で非課税の特例は適用されません。

先に贈与を受け、カバーしきれなかった分を住宅ローンで賄う場合は適用対象となります。非課税の特例を利用したいのなら、資金の使い方とタイミングに十分注意し、住宅ローンとの併用を検討しましょう。

住宅取得等資金の贈与を正しく理解しよう

通常、贈与を受けたら贈与額に応じた税が課せられます。しかし、直系尊属から贈与された住宅取得等資金には、非課税の特例が適用されます。この特例を適用すれば、最大1,000万円までの贈与が非課税になるため、贈与税を大幅に節税することが可能です。

ただし、制度を利用するには、以下の点に注意が必要です。

  • 資金の用途は住宅の新築・取得・増改築に限定されること
  • 贈与を受けた年の翌年2月1日~3月15日までに申告すること
  • 一定の所得制限や住宅性能の要件を満たす必要があること

特例の適用要件や申告手続きについて分からないことや不明な点がある場合は、プロに相談してサポートを受けるのがおすすめです。

貝沼建設で株式会社は、税理士や弁護士、土地家屋調査士など各種専門家と提携し、物件の購入や売却だけではなく、相続・遺言サポートや確定申告サポートなどの幅広いサービスを提供しています。「子どもや孫にマイホーム資金を援助したいが、非課税特例制度について詳しく分からない」という方は、お気軽にご相談ください。

監修者:戸田 好政
役職 企画本部副本部長
資格 不動産コンサルティングマスター 宅地建物取引士 賃貸不動産経営管理士 
   管理業務主任者 2級FP技能士
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