土地活用コラム
譲渡所得税とは?不動産売却で知っておくべき税金の基礎
不動産や株式などの資産を売却して利益が出た場合、その利益に応じて譲渡所得税が課税されます。なるべく税負担を抑えるには、税金の仕組みや計算方法、控除制度などについて正しく把握しておくことが大切です。
そこで本記事では、譲渡所得税の基礎知識や計算方法、税負担軽減のための特例制度などについて詳しく解説します。
譲渡所得税とは? 課税の対象となるもの
不動産や土地などの財産を譲渡した場合、譲渡所得税を納税する必要があります。まずは、譲渡所得の基本的な考え方や課税対象の資産、計算方法について見ていきましょう。
譲渡所得の基本的な考え方
譲渡所得とは、土地や建物、株式などの資産を売却(譲渡)して得た利益を指しています(※1)。譲渡所得税は、その利益に対して課税される税金です。
譲渡所得は単独で区分されているのではなく、所得税と住民税で構成されています。2037年12月までは、所得税に復興特別所得税(2.1%)が上乗せされる仕組みです(※2)。実際に負担する税額は、特別控除の適用や不動産の保有期間などによっても異なり、所得が多いほど税額も増加します。
※1参考:国税庁.「No.1440 譲渡所得(土地や建物を譲渡したとき)」,(参照2024-04-01).
※2参考:国税庁.「No.2260 所得税の税率」,(参照2024-04-01).
譲渡所得税が課税される資産の種類(土地、建物、株式など)
譲渡所得税の課税対象となる代表的な資産は、以下の通りです(※)。
- 土地・建物
- 借地権
- 株式
- 金地金
- 宝石・書画・骨とう品(1個または1組の価額が30万円を超えるもの)
- 鉱業権、土石(砂)
- 船舶・機械器具
- 漁業権
- 市場で売買・譲渡される慣習がある借家権
- 配偶者居住権・配偶者敷地利用権
- ゴルフ会員権
- 特許権・著作権などの知的財産権
このように、土地や建物などの物理的に存在するものだけではなく、漁業権や借家権、ゴルフ会員権などの権利も課税対象となります。ただし、生活必需品の譲渡や公益事業を行う法人への譲渡、国や地方団体に対する譲渡などについては、課税されない場合があります(※)。
※参考:国税庁.「No.3105 譲渡所得の対象となる資産と課税方法」,(参照2024-04-01).
譲渡所得税の計算方法の概要
譲渡所得税は、以下の計算式を用いて算出します(※)。
- 譲渡所得の計算
譲渡所得 = 譲渡価額(売却金額) – (取得費 + 譲渡費用) - 課税譲渡所得の計算
課税譲渡所得 = 譲渡所得 – 特別控除 - 税額の計算
税額 = 課税譲渡所得 × 税率
土地や建物を譲渡(売却)した場合の税率は、長期譲渡なのか短期譲渡なのかによって変動する仕組みです(※)。さらに、2037年12月までは所得税に復興特別所得税(2.1%)が上乗せされます。
※参考:国税庁.「No.1440 譲渡所得(土地や建物を譲渡したとき)」,(参照2024-04-01).
譲渡所得の計算方法を詳しく解説
先述した通り、譲渡所得は以下の計算式で算出します(※)。
ここからは、上記の計算式で出てくる以下3つの項目が何を指しているのか、詳しく解説します。
- 譲渡価額(売却金額)
- 取得費
- 譲渡費用
※参考:国税庁.「No.1440 譲渡所得(土地や建物を譲渡したとき)」,(参照2024-04-01).
譲渡価額(売却金額)
譲渡価額(売却金額)とは、土地や建物を売却した際に、買い主から受け取った代金の合計のことです(※)。売買契約に基づき買い主から受け取った未経過分の固定資産税や都市計画税の精算金も、譲渡価額に含める必要があります(※)。代金として現金以外に物品や権利を受け取った場合も、それらの時価を譲渡価額として扱う仕組みです(※)。
さらに、通常の対価以外に経済的な利益を受けた場合は、その利益分も譲渡価額に加算します(※)。
※参考:国税庁.「No.1440 譲渡所得(土地や建物を譲渡したとき)」,(参照2024-04-01).
取得費(購入費用、建築費用など)
取得費とは、売却した土地や建物の購入代金や建築費用、設備の設置費などにかかった費用を指します(※1)。
ただし、これらの費用を合計した金額がそのまま取得費になるわけではありません。建物などの資産は、合計金額から減価償却費を差し引いた残りの金額が取得費として扱われます(※2)。取得費は、以下のように減価償却費を用いて計算されます(※2)。
- 減価償却費 = 取得価額 × 0.9 × 償却率 × 経過年数
- 取得費 = 取得価額 – 減価償却費
償却率は、建物の構造に応じて定められています(※3)。
もし譲渡価額が3,000万円、鉄筋コンクリート造(築10年)の建物なら、減価償却費は、以下のように計算します。
上記の建物の取得価額が1,000万円だった場合、取得費は「1,000万円 – 405万円」で595万円となります。
※1参考:国税庁.「No.3252 取得費となるもの」,(参照2024-04-01).
※2参考:国税庁.「No.3261 建物の取得費の計算」,(参照2024-04-01).
※3参考:国税庁.「「減価償却費」の計算について」,(参照2025-05-24).
譲渡費用(仲介手数料、立退料など)
譲渡費用は、土地や建物の売却でかかった費用の合計を指します。該当する費用項目は、以下の通りです(※)。
- 売却で支払った仲介手数料
- 売り主が負担した売買契約書の印紙税
- 借家人に支払った立退料
- 売却に伴う建物の取り壊しで発生した取り壊し費用
- 売買契約締結済みの資産を好条件で売るために支払った違約金
- 借地権の売却で地主に承諾する際に発生した名義書換料
なお、土地や建物にかかった修繕費や固定資産税などは、譲渡費用には該当しません。譲渡費用として認められるかどうかは、売却との直接的な関連性があるかどうかがポイントです。
※参考:国税庁.「No.3255 譲渡費用となるもの」,(参照2024-04-01).
譲渡所得税の税率|長期譲渡所得と短期譲渡所得の違い
土地や建物などの不動産を売却して利益が出た場合、その所有期間によって適用される税率が変わります(※)。
- 所有期間が5年を超えていれば「長期譲渡所得」
- 所有期間が5年以下であれば「短期譲渡所得」
以下で、詳しい税率と計算例を見ていきましょう。
※参考:国税庁.「No.3202 譲渡所得の計算のしかた(分離課税)」.”長期譲渡所得と短期譲渡所得の区分”,(参照2024-04-01).
長期譲渡所得の税率と計算例
土地や建物を売却した年の1月1日時点で、所有期間が5年を超えている場合、長期譲渡所得に該当します(※1)。具体的な税率は、以下の通りです。
- 所得税:15%
- 住民税:5%
- 復興特別所得税:所得税額の2.1%(2037年12月末まで)
それでは、以下の建物を例に実際の税額がいくらになるのかシミュレーションしてみましょう。
- 譲渡価額:5,000万円
- 取得費:1,500万円
- 譲渡費用:2,000万円
- 所有期間:10年
- 特別控除:なし
まずは、譲渡所得を求めます。
このように、条件の建物の譲渡所得は1,500万円です。
次に、課税譲渡所得を算出しますが、ここでは特別控除の適用はなしと設定しているため、課税譲渡所得は1,500万円となります。
最後に、課税譲渡所得に長期譲渡所得の税率(所得税・住民税)を掛けて税額を求めます。
1,500万円 × 15% = 225万円
さらに2037年12月までは、上記の所得税額に復興特別所得税(2.1%)が加算されるため、こちらも併せて計算します(※2)。
225万円 × 2.1% = 4万7,250円
【住民税:税率5%】
1,500万円 × 5% = 75万円
従って、譲渡税額は「225万円 + 4万7,250円 + 75万円」で304万7,250円です。
※1参考:国税庁.「土地や建物を売ったとき」,(参照2025-05-24).
※2参考:国税庁.「No.2260 所得税の税率」,(参照2024-04-01).
短期譲渡所得の税率と計算例
土地や建物を売却した年の1月1日時点で、所有期間が5年以下だった場合、短期譲渡所得に該当します(※1)。具体的な税率は、以下の通りです。
- 所得税:30%
- 住民税:9%
- 復興特別所得税:所得税額の2.1%(2037年12月末まで)
ここでは、長期譲渡のシミュレーションと同様の建物で税額を計算してみます。
- 譲渡価額:5,000万円
- 取得費:1,500万円
- 譲渡費用:2,000万円
- 所有期間:4年
- 特別控除:なし
まずは、譲渡所得を求めます。
このように、条件の建物の譲渡所得は1,500万円です。ここでは特別控除を適用しないため、この1,500万円が課税譲渡所得になります。
最後に、課税譲渡所得1,500万円に短期譲渡所得の税率(所得税・住民税)を掛けて税額を求めます。
【所得税:税率30%】
1,500万円 × 30% = 450万円
2037年12月までは、上記の所得税額に復興特別所得税(2.1%)が加算されるため、こちらも併せて計算します(※2)。
450万円 × 2.1% = 9万4,500円
【住民税:税率9%】
1,500万円 × 9% = 135万円
従って、譲渡税額は「450万円 + 9万4,500円 + 135万円」で594万4,500円です。長期譲渡に比べて約2倍の税率が適用されるため、所有期間によって大きな税負担の差が生じます。
※1参考:国税庁.「土地や建物を売ったとき」,(参照2025-05-24).
※2参考:国税庁.「No.2260 所得税の税率」,(参照2024-04-01).
譲渡所得税を軽減するための特例と控除
譲渡所得税は、一定の条件に該当していれば特例や控除制度で税額を軽減できます。代表的な制度の内容を理解し、該当するものがないかチェックしましょう。
居住用財産の3,000万円特別控除
居住用財産(マイホーム)を売却した際は、所有期間を問わず最大3,000万円が控除されます。ただし、適用には以下のような要件が定められています(※)。
- 現在住んでいるマイホームであること
- 住まなくなってから3年が経過する年の年末(12月31日)までに売却するマイホームであること
- 災害で消失した敷地で一定期間の間に売却するマイホームであること
上記の他にも、さまざまな条件が設定されています。適用されれば非課税になる可能性があるため、国税庁のホームページで詳しい条件を確認しましょう。
※参考:国税庁.「No.3302 マイホームを売ったときの特例」,(参照2024-04-01).
特定の居住用財産の買い換え特例
2025年12月31日までに特定の居住用財産を売却し、新しく買い替えた場合は、一定の条件を満たせば譲渡益に対する課税を将来に繰り延べることが可能です(※)。
自宅を売って利益が出た場合、その利益には本来譲渡所得税がかかります。しかし、本特例が適用されれば、すぐに税金を支払うのではなく、買い替えたマイホームを将来譲渡するときにまとめて課税されます。
ただし、この特例は譲渡所得税が非課税になるわけではありません。課税が先延ばしになるだけで、将来マイホームの価値が下がる場合には、税負担がかえって大きくなる可能性があるので注意しましょう。
※参考:国税庁.「No.3355 特定のマイホームを買い換えたときの特例」,(参照2024-04-01).
相続財産を譲渡した場合の取得費加算の特例
両親や親族などから相続財産を譲り受けた場合、一定の条件を満たせば取得費加算の特例を活用できます(※)。
譲渡所得は、財産の売却で得た譲渡価額から取得費を差し引いて算出します。本特例が適用されると、相続税の一部を取得費に加算できるため、譲渡所得が減って税額を抑えることが可能です。
ただし、以下の条件を満たす場合にのみ活用できます(※)。
- 相続や遺贈で受け取った財産である
- 財産を受け取った人に相続税が課税されている
- 相続でもらった財産を、相続税の申告期限が過ぎてから3年以内に売却している(相続開始日の翌日から起算)
株式などの譲渡による事業所得や雑所得には適用できませんが、譲渡所得の軽減を図る上で有効な特例です。
※参考:国税庁.「No.3267 相続財産を譲渡した場合の取得費の特例」,(参照2024-04-01).
その他、状況に応じた特例措置
ここまでご紹介した特例措置以外にも、状況に応じて適用できるさまざまな特例措置があります。例えば、農地を譲渡した場合は、譲渡理由に応じて800万~5,000万円の控除を受けられます(※1)。
また、2009年もしくは2010年に取得した土地を譲渡した場合は、一定の条件に該当すれば1,000万円の特別控除を受けることが可能です(※2)。
その他、低未利用土地の譲渡や公共事業のために売却した場合にも特別控除が受けられる可能性があります(※3)。農林水産省や国税庁のWebサイトを確認し、適用できる制度がないかチェックしましょう。
※1参考:農林水産省.「農地を売った場合の税金」,(参照2025-05-24).
※2参考:国税庁.「No.3225 平成21年及び平成22年に取得した土地等を譲渡したときの1,000万円の特別控除」,(参照2024-04-01).
※3参考:国税庁.「No.3223 譲渡所得の特別控除の種類」,(参照2024-04-01).
譲渡所得税を理解して不動産取引をスムーズに進めよう
不動産や株式などの資産を売却して利益が出た場合には、譲渡所得税が課税されます。税額は、譲渡価額から取得費や譲渡費用を差し引いた金額に税率を掛けて計算します。税負担を抑えるなら、特例や控除制度の活用を検討しましょう。
特例や控除制度を正しく理解し、適切な手続きを行うことで節税しながら資産運用・整理が進められます。
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